© Sacrebleu Productions

第19回 アニメーション部門 大賞

Rhizome

短編アニメーション

Boris LABBÉ

作品概要

圧倒的な緻密さと極端な構図で展開される短編アニメーション作品。最小単位から無限に生成される世界は宇宙そのものであり、変容を続けるすべての要素が相関し、影響しあっている。タイトルは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』(1980)で複雑に展開されるRhizome(リゾーム)の概念からつけられている。本作では、そのリゾームの原則を網羅しながら、生物学的な意義と哲学観の考察が試みられている。作者によれば、スティーヴ・ライヒの音楽のコンセプトとエッシャーの数学的な作品、そしてボッシュやブリューゲルの絵画と、遺伝学のような生物の進化に関する理論やミクロとマクロの関係などの要素のあいだに生まれてくる何かをつくりたいと考えるなかで、このドゥルーズとガタリの概念が頭に浮かび創作につながったという。若い作者の興味と欲求を具現化した独創的な作品である。

贈賞理由

もともとアニメーション上では、物のスケールは擬似的なもので、相対的でしかない。この作品は、仮想のスケール空間のなかで、生物とも無機物ともつかない抽象的な形態がつねに変化し、個々の動きが全体の動きへと連なっていく。ミクロからマクロまでをワンカットで見渡す作品は『コズミック・ズーム』や『パワーズ・オブ・テン』(ともに1968)といった古典的科学アニメーション作品の先行事例があるが、この作品は科学的な視点ではなく、ボッシュのような主観的な世界の認識の様相を、圧倒的なドローイングとデジタル合成の物量で見せきった。ここには未知の生態系を覗き見る喜びがあり、絵に擬似的な生命感を与えるアニメーションの原始的なおもしろさがある。またミクロの世界からズームアウトしてマクロな世界へ行きついた世界がまるで苔のようで、マクロに達したはずの最後に小さな世界を見せられているという、マクロからミクロへの逆転の感覚を覚える点もユニークだ。(山村 浩二)