第23回 マンガ部門 大賞
ロボ・サピエンス前史
島田 虎之介 [日本]
作品概要
ロボットと人間が共存する時代を舞台に、ロボットたちのさまざまなあり方を、シンプルな線描と記号的な背景、詩的な余白によって描くオムニバス作品。最初のエピソードは、とある富豪の依頼で、かつて富豪の恋人だったロボットを探すサルベージ屋の物語。調査を進めるうちに、そこに秘められた人間の愛情とエゴが明らかになる。超長期耐用型ロボット「時間航行士(タイムノート)」たちの物語では、彼らは放射性廃棄物を無害化するための施設の管理や、地球型惑星探査といった人間には不可能な長期スパンのミッションを与えられ、従事する。しかし、彼らを生みだした人間の博士からは秘密裏に第二のミッションを与えられていた。人間の妻の遺言により、人間の依頼に応える「自由ロボット(フリードロイド)」となったロボット・伊藤サチオの物語では、誰の所有物でもないサチオが、人間の要請に応え続けていくなかで、人や自然と触れ合うさまが描写される。収録されたそれぞれの物語は次第に繋がりを持ち始め、人間から与えられた命令を忠実にこなそうとするロボットたちのあり方を通して、ロボ・サピエンス時代の到来を前にした人間とロボットの取り結ぶ複雑な関係を浮かび上がらせることになる。
贈賞理由
シンプルな線で描かれたキャラクター。建物などには用途や状態が字で書かれ、ディテールは省略されている。デザインはどこかユーモラスなレトロフューチャー。とても特徴的な、抽象化された絵柄だ。ある意味、マンガの始まりに戻ったような、マンガらしいマンガ。それでいて、扱うテーマはひどく生々しく、私たちがまさに今直面していることをじかに扱っている。いや、だからこそ扱えた、というべきかもしれない。雑音が遠のき、行きついた先にある種の詩情が宿る。マンガだからできた表現がそこにある。また、滑らかに引き込まれるストーリー性も評価が高く、各審査委員が総合的にみた結果、大賞が妥当となった。「サピエンス」とは「賢い」という意味だそうだ。作者が幻視した「ロボ・サピエンス」の「サピエンス」な姿は我々「ホモ・サピエンス」にとって希望だろうか、それとも絶望だろうか。広く読まれ、それぞれに感じて欲しい作品である。(白井 弓子)