田中相/講談社

第16回 マンガ部門 新人賞

千年万年りんごの子

田中 相

作品概要

時は昭和40年代。生まれてすぐ、東京の寺の境内に捨てられた主人公「雪之丞(ゆきのじょう)」は、青森のりんご農家の娘である「朝日」とお見合いをし、雪深いりんごの国に婿入りすることに。昭和の激動から離れ、北の家族と静かに過ごす四季。それは、親を知らない雪之丞のなかに温もりをもたらす。しかし、ある冬、寝込んだ妻のために禁断のりんごを食べさせたことから、すべては一変。60年前に絶えたはずの祭儀を蘇らせ、朝日は“おぼすな様”という土地の神の妻となった。受け継がれる歴史を尊び守り抜く村人たちや古き日本の自然を、表現力豊かなタッチで繊細かつ大胆に描く連載作。

贈賞理由

2011年の初単行本『地上はポケットの中の庭』の連作で、生命の息吹、それらのつながりを鮮やかに描いた作者による、雪深いりんごの村を舞台とする最新長編(第1巻)。りんごの木や花の咲き誇る健康さと同時に、主人公の夫婦が禁忌に触れる前後のりんごの実の妖しさをも巧みに描写している。村の閉鎖的な空間で、新参者の行動に戸惑う人々が多いなか、禁忌をある種自然に受け入れる「人間の不思議さ」が、作品全体に生命讃歌とも呼べる明るいトーンを与えており、続きを期待させる。初の長編で安定した実力を示した点が高く評価された。