第25回 アート部門 大賞
太陽と月の部屋
インタラクティブアート
anno lab(代表:藤岡 定)/西岡 美紀/小島 佳子/的場 寛/堀尾 寛太/新美 太基/中村 優一[日本]
作品概要
大分県豊後高田市に設立された「不均質な自然と人の美術館」にある、自然と触れ合い身体性を拡張することをテーマにつくられたインタラクティブアートのひとつ。本作は訪れる人が太陽の光と戯れることができる部屋をコンセプトにしている。来場者が部屋の中を歩くと天井の小窓が自動で開閉し体が光に包まれるとともに、足元の日だまりが小窓の開閉によって月が満ち欠けするように形を変えていく。鑑賞者の立ち位置はセンサーで検知され、太陽の方角にある小窓だけが開口。また、室内は気象庁の天候情報を解析し、その時々で最適な演出になるよう調整され、晴れの日には部屋の中に靄がかかり、足元に降り注ぐ光芒を見ることができる。加えて、小窓が開くタイミングでピアノの音が鳴り、部屋の中を歩くことでピアノ曲が演奏される。本作においてそのテクノロジーは直接提示されず、あくまで太陽の光を切り取って鑑賞者の肌の上に直接届け、自然を感じさせるために用いられる。人工的な光ではなく自然光を鑑賞者に届けることで、視覚のみならず光が持つ温もりをも感じさせ、体験する者の感覚と意識を研ぎ澄ませるように設計された。
贈賞理由
太陽は、東から昇って西に沈み、季節によって異なる位置を動いている。頭でわかっていても、その光がどのように動いていくかを体感することは容易ではない。本作は、太陽の光の動く軌跡をテクノロジーによって制御しながら、来館者が光の動きをさまざまな機能から直接体験できるシステムを実現している。一見シンプルであるにもかかわらず、遊び心にあふれ、結果的に、自然の時間そのものの体験をコミュニティに根ざした調査やさまざまな人々との協働によって実現した点で、審査委員から高い評価を得た。現地へ実際に行って体験することが容易ではない状況だが、コロナ禍において、オンライン化やデジタル化が浸透し日常化する一方で、身体を通した体験が問い直される時代への応答となる本作の今日的重要性は高く、今後のメディア芸術表現の幅を広げていく可能性を含め、大賞として選出した。(田坂 博子)