©2013 Red Telephone Box
Direction: Wriggles & Robins | Executive Producers: Tracy Stokes, Richard Flintham, Casper Delaney | Producer: Noreen Khan | Online Producer: Alannah Currie | DP: Luke Palmer | Editor: Ben Campbell at Cut and Run | Lead Animator: Bernat Amengual at MPC | Sound Mix: Phil Bolland at 750mph

第17回 エンターテインメント部門 優秀賞

トラヴィス「ムーヴィング」

ミュージックビデオ

Tom WRIGGLESWORTH / Matt ROBINSON

作品概要

イギリスのバンド「トラヴィス」のシングル「ムーヴィング」のミュージックビデオ。息が白く見える低い気温の中で、バンドメンバーが歌う息に、プロジェクターでアニメーションを投影し、撮影されている。彼らの初期作品「Love is in the Air」で試みた技術を応用した、特殊技術を使わないカメラの撮影というアナログな手法で、ヴィジュアル・エフェクトのような効果を生み出すことに成功している。アニメーションは、それぞれのバージョンで息をしては微調整を繰り返し、最も鮮明な映像を求めて何百ものバリエーションを試作しながら数週間かけてじっくりと作成された。本作の撮影は、人工的に氷点下にまで冷やされたスタジオの中で複数のプロジェクターを用いて行い、そこにはバンドメンバーを暖めるためのたっぷりの熱いお茶も用意されたという。

贈賞理由

今年もいわゆる「プロジェクション」作品が数多く応募された。規模感や先端感を前面に打ち出し、高出力のプロジェクターによってモノや空間をパワフルに「上書き」しようとする作品が多数を占める中、寒い空間でひっそりと吐かれた白い息に小さなアニメーションが儚げに投影されている様子を淡々と観察する本作品は異彩を放っていた。投影されるアニメーションはそのどれもがシンプルで最小限であるが、そのすべてのアイデアは、人が息を吐くという行為や白い外気の移ろいという、この状況自体の豊かさを引き出すことに捧げられている。モニターやスクリーンといった抽象平面により我々の日常がますます包囲されつつある今、より身近に感じるモノや空間、場所に回帰し、これらをメディアとすることで新たな関係を結びたい、といった意思が、昨今の「プロジェクション」の流行の背景にあるとすれば、本作品はまさにそういった思いの中心を射抜いている。(中村 勇吾)