© Seike Yukiko 2017

第20回 マンガ部門 新人賞

月に吠えらんねえ

清家 雪子[日本]

作品概要

萩原朔太郎(はぎわらさくたろう、北原白秋(きたはらはくしゅう)、室生犀星(むろうさいせい)らの作品から生まれた「朔(さく)くん」「白(はく)さん」「犀(さい)」など、詩人本人ではなく作品のイメージをキャラクター化し、近代詩と日本の近代をいきいきと描いた作品。物語の舞台となる「□(シカク:詩歌句)街」には、詩人・歌人・俳人の作品を基にした架空のキャラクターたちが集い、創作に励む。ある日、町はずれに謎の死体が現われた頃から街は戦前・戦中の不穏さに強く導かれはじめ、詩人たちはその雰囲気に抗えず戦争賛美へと向かってしまう。登場人物の言葉として鮮やかに引用される詩の数々は、創作にまい進する詩人たち、目覚めた自意識に苦しむ近代の女性像、文学者の戦争責任など、各々の罪や功績を鋭く描いている。

贈賞理由

後世では教科書に載ったり生家が観光スポットになったりと持ち上げられていても、今どきのバンドマンより危険極まりないのが詩人かもしれない。格差社会の底で苦しみ、わかりあえたはずの友人や夫婦のあいだでも才能の格差に苦しみ、戦争になればいきなり国家の代表のような詩をつくり、平和になれば戦犯のように叩かれる。時間も空間も閉じた詩の世界はどたばたうるさく息苦しく生臭く、妄想のまま暴走する主人公に作者はついて走り、どんな表情もうめき声もすべて描いて見せる。文字だけでなくマンガだからこそできた近代詩の評論だと思った。(松田 洋子)