©︎ Kana Akatsuki,Kyoto Animation/Violet Evergarden Production Committee

第24回 アニメーション部門 優秀賞

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン

劇場アニメーション

⽯⽴ 太⼀[日本]

作品概要

代筆業に従事するヴァイオレット・エヴァーガーデンは、幼い頃から兵⼠として戦い、⼼を育む機会が与えられなかった。ヴァイオレットは⼤切な上官、ギルベルト・ブーゲンビリアが残した「⼼から、愛してる」という⾔葉が理解できなかった。⼈々に深い傷を負わせた戦争が終結し、世の中が前を向いて進もうとしているなか、ヴァイオレットは消息不明となったギルベルトがどこかで⽣きていることを信じ、ただ彼を想う⽇々を過ごしていた。そんな折、ヴァイオレットへユリスという少年から依頼の電話がかかってくる。さらに、ギルベルトの友人である郵便社の社長が、倉庫で宛先不明の手紙を発見する。テレビシリーズの物語をより深めるように、ヴァイオレットの⼈⽣を描き切ろうとした作品。街並みや⾵景、芝居を繊細に描写し、確かな世界観をつくり上げた。

贈賞理由

言葉にできない思いを伝えたいとき、人はどうすればいいのだろう……。デジタルメディア時代になった今でこそ、この問いは心に響く。本作品は、テレビシリーズの続編ゆえに、テレビ未視聴の観客には不利とされる劇場版である。しかしそうした困難は、物語を「現在」の物語空間のデイジーの視点からヴァイオレットの生きる過去の時空間を俯瞰する、という二重構造にすることで、未視聴の観客にとっても無理なく解決されている。このような「デタッチメント」の視点は、主人公ヴァイオレットの過去の物語空間でのカメラワークに象徴的である。ロングショット、登場人物を後ろから見る第三者的視点、ややハイアングルのショットを多用することによって、観客は登場人物の視点に過度に同調することなく距離を置くことができる。そして言葉にできない、誰かを「愛してる」という思いは、時空を超越し、現在の物語空間のデイジーの心に継承されるという結末も実に秀逸である。(須川 亜紀子)