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第19回 アニメーション部門 優秀賞

Yùl and the Snake

短編アニメーション

Gabriel HAREL

作品概要

作者が南フランスで過ごした少年時代の体験をもとに発想された成長物語。13歳の少年Yùl(ユル)は、兄Dino(ディノ)に連れられて、兄が取引をする大きな番犬を連れた地元の暴君のMike(マイク)のもとへと行くが、そこで暴力と屈辱に直面する。そして、Yùlが追いつめられたとき、不思議なヘビが現われる─。作者の短編アニメーション監督第1作めとなる本作は、まず俳優の演技による実写映画として撮影され、そのうえで2Dコンピュータ・アニメーションとして制作されている。このようなプロセスによって、構図および登場人物の会話は現実味を獲得することに成功している。モノクロの映像がリアリズムとファンタジーのあいだを往復しながら、カラーで描かれた物語の核となる部分がこのバランスを強調しており、短編ながら特徴的な作風が作品に広がりを与えている。

贈賞理由

削ぎ落としたシンプルなイラストレーションで、3人の登場人物の感情の流れをここまで深く、的確に現実味をもって表現できていることに驚きを覚える。暴力による力関係が支配する殺伐とした世界でしか生きられない若者のヒリヒリとした感覚は、現在のヨーロッパが抱える問題に、直接的ではないが接続していて、今この作品をつくる切実さと意味が理解できる。蛇と少年の交流は、トーテミズム(動植物との特別な関係が社会的規範となる宗教形態)も連想させ、自分には持ちえない悪の力の願望の象徴として魅惑的に描かれている。最後に弱き物が怒りの感情を爆発させる展開は、日本の任侠映画も思い出させる。力関係を逆転させた後の少年の兄へのリアクションにより、単なるヒロイズムや復讐劇で終わっていない点も素晴らしい。物語は短編として完結しているが、しかし前後に3人それぞれの人生の大きな物語を想像させる膨らみを持っている点も、この作品の豊かさを示している。繊細でいて力強い。(山村 浩二)