第21回 エンターテインメント部門 大賞

人喰いの大鷲トリコ

ゲーム

『人喰いの大鷲トリコ』開発チーム(代表:上田 文人)[日本]

作品概要

『ICO』(2001)や『ワンダと巨像』(05) といったPlayStation®2を代表するゲームを手がけ、国内外に熱心なファンを持つ上田文人が、監督とゲームデザインを担当したアドベンチャーゲーム。プレイヤーは主人公の少年を操作し、巨大な生き物、大鷲のトリコとコミュニケーションを取りながら、忘れ去られた巨大遺跡のさまざまな仕掛けを解き明かしていく。トリコをエサで誘い出して任意の場所に移動させたり、敵の出現で興奮したら撫でて落ち着かせたり、直接の操作が及ばない存在へのアプローチが、本作の特徴的なゲーム性を生み出している。制作の初期から取り掛かったというトリコのキャラクターデザインは、ドラゴンや恐竜といったファンタジーで定番化した生き物ではなく、犬か猫のような顔と、羽を持つ独特な姿で表現されている。また、トリコは高度なグラフィック技術によって、質感や仕草が一つひとつまで作り込まれているだけでなく、搭載されたAIによって複雑な空間、主人公、好物のタルといった周囲の状況を認識し、自らの判断で行動する。こうしてリアリティをもって描かれるトリコは、美麗な背景美術による民話のような世界の中で共に歩む存在として、かけがえなく愛おしいパートナーになっていく。

贈賞理由

この作品が目指しているのは、架空の動物に対する心の絆という、これまでのゲームの文法とはまったく異なるゲーム体験である。そのため、プレイヤーがトリコを動物として違和感なく感じられるよう、惜しみなくAI技術がつぎ込まれている。身近に実在する動物をモデルとしたモーションや質感は、コンピュータが動かしているCG映像に過ぎないという認識を突き崩し、信頼関係を築ける存在としてトリコを意識させる。また、ゲームメカニクスはアクションアドベンチャーだが、先の展開を自然と視界に入れるカメラワークは、操作性が犠牲となることを上回る良質なナラティブ(物語)を提供している。さらに重要なシーンでは、スローモーションを使った演出が行なわれるが、アクションのタイミングや間合いによっては失敗する場合もある。しかしこの失敗も、より印象に残るナラティブとして見せるなど、これは日本でしかつくることのできない、新たなゲームのかたちと言える。(遠藤 雅伸)