第25回 エンターテインメント部門 講評
新しい日常とともに
昨年度は、コロナ禍にいち早く反応した作品が多い印象を持った。今年のエンターテインメント部門審査は、これと比較してどのような傾向が見られるかが個人的な注目ポイントとなった。結果として、ことさらコロナ禍に注目した作品への評価が思ったより伸びなかったのがおもしろい。パンデミックは日常化し、それを前提として何をやるかが問われはじめている。
日常という意味では、『新宿東口の猫』や『viewers:1』、あるいは『20歳の花』もそうだが、これらの作品はSNS社会もまた我々の日常となり、作品をめぐる(当然の)環境となったことを感じさせるものだった。『Project Guideline』もそうだが、「バズる」といった安易なポピュリズムを越えて、情報プラットフォームとの連動を感じさせる作品の発展に今後も期待したい。
テクノロジ ーを前提としつつ、何を作品体験として与えるか。それを軸 に振り返ると、『サイバーパンク2077』『Dislocation』『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA』さらには大賞となった『浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~』にも、共通する考え方があったように思う。これらの作品が提供するのは、視点の多数化、あるいは視点という発想からの脱却である。
カメラは事実上無数に存在でき、視覚体験は多元的になりうる。それを踏まえて、こうした作品群が技術的に可能であるとは、前々からわかっていた。しかし、では何を見せるのか。そのアイデアと演出が洗練され、熟成され、思想性をおびた形で結実した作品が、今回は高く評価されたように思う。
個人的には、昨年度はゲーム分野の応募が盛況で、海外も含めて魅力的な作品が多く集まったことも記憶に残っている。今後ますます、ゲーム分野の作品で驚くべきユーザー体験を与えてくれる作品が現れることに期待したい。