15回 マンガ部門 講評

多彩な作品群と今後が期待の海外作品

新人賞が新設されたこともあり、最終選考作品は例年にも増して多彩だった。過去何度か最終選考に残った作品から、今年見事な結末へと着地した『土星マンション』や、まさにクライマックスを迎えつつある『秘密 トップ・シークレット』が、支持を集めてようやくの大賞、優秀賞に輝く一方で、新たなインパクトをもって登場した『I』『ママゴト』『Sunny』などは、強く推す声もあったものの「今後の展開に期待」となった。長期連載となることの多いストーリー作品を、果たしてどの時点で評価すべきかは永遠のジレンマといえる。東日本大震災と続く原発事故の衝撃への作家自身の煩悶が、独自の表現へと昇華した『あの日からのマンガ』は、他の応募作品にも垣間見られた多くのマンガ家の思いに通じる。海外作品が初の優秀賞、しかも一挙に2作受賞となったのも、海外マンガの翻訳出版が急増したこの年を象徴する結果といえる。一方、BD(フレンチコミック)の巨匠メビウスの『アンカル』には、作品自体への高評価とは別に、原著が1988年に完結したすでに定評ある作品を、今改めて称揚する意義が問われた。未翻訳の傑作は、世界にまだまだ数多い。それらにメディア芸術祭としてどう目を向けるべきかは、今後の課題といえよう。新人作家には、西村ツチカの同人誌作品『地獄...おちそめし野郎ども』、えすとえむ『はたらけ!ケンタウロス』、阿部洋一『血潜り林檎と金魚鉢男』を推した。いずれも、新人ならではのふてぶてしさが魅力だ。

プロフィール
村上 知彦
神戸松蔭女子学院大学教授
1951年、兵庫生まれ。関西学院大学社会学部卒業。評論家、編集者。スポーツニッポン新聞大阪本社文化部、チャンネルゼロ取締役、情報誌「プレイガイドジャーナル」編集長を経て、神戸松蔭女子学院大学文学部総合文芸学科教授。手塚治虫文化賞選考委員。日本マンガ学会理事。著書に『イッツ・オンリー・コミックス』(広済堂文庫)、『まんが解体新書』(青弓社)などがある。