15回 アニメーション部門 講評

完璧な「コピー」の中で、高度な物語が際立つ

テレビシリーズ作品に原作付きの割合が異様に高く、しかもその演出が完璧なコピーを目指しているとしか思えない点で共通性がある、というのが際立った傾向だった。さらに、その主題が日常の心象に終始して、劇的な展開や構造を必要としなくなっている=物語性が希薄化している傾向も共通している。漫画原作のアニメへの翻訳や移植など、要するに完璧な「コピー」は、実はかなり高いレベルの作画技術と演出力が必要で、その意味ではテレビシリーズに関わるスタッフの技術レベルが相対的に底上げされたことを傍証している。現在のアニメファンの需要に応える、という側面では評価すべきなのかもしれないが、表現行為としては明らかに後退しており、特定の需要に特化するという傾向が続くとすれば......間違いなく続くのだろうが、憂慮すべきというレベルを超えて、業界全体の自殺行為に繋がると思われる。ただし、一部の制作者、演出家の中に、この傾向を逆手にとって、高度な物語性や突出した演出を試みている応募作もあり、一般性には欠けるかもしれないが、これらの作品を高く評価することにした。

プロフィール
押井 守
映画監督
1951年、東京都生まれ。静岡県熱海市在住。東京都立小山台高等学校、東京学芸大学教育学部美術教育学科卒業。84年よりフリーランスで活動。斬新な映像世界に国内外を問わず、注目が集まる。ゲームクリエイター、小説家、脚本家、漫画原作者、劇作家、大学教授。2008年より東京経済大学コミュニケーション学部客員教授就任。主な作品に『うる星やつら オンリー・ユー』『機動警察パトレイバー 劇場版』『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』など。アニメーション映画『イノセンス』(カンヌ国際映画祭オフィシャル・コンペティション部門出品作品)により、日本SF大賞を受賞。