第10回 アニメーション部門 講評
デジタル技術の実験期からの脱却
現在のアニメ状況を反映して出展本数が多く、内容もバラエティに富んでいたために、審査は心楽しいものだった。コマーシャル・レベルのものから劇場サイズまで、デジタル技術の実験期から脱却しつつあると実感できたことは収穫だった。しかし、その反動か、本来、映像作品に不可欠である物語の創出と構成の粗雑さが目についたのは残念なことであった。アニメ制作にも芝居心は必要なのだ。理念が必要、と言いかえてもよいだろう。その意味では、今回の受賞作にはすべてを肯定できない要因も含まれているが、時代性を取らざるを得ないという問題もあった。ことに、商業ベースの作品に文芸と演劇的構成力の脆弱さが散見されて、「映画的なるものを目指さなければならない」という一点については、関係各位の奮起を願うところである。
プロフィール
富野 由悠季
アニメーション監督・演出家
1941年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。1960年代半ば、虫プロでTVアニメ『鉄腕アトム』などの演出・脚本を経てフリーに。以降、おびただしい数のアニメ・シリーズの絵コンテを手掛け、1970年代後半からは自らの原案・演出で、ロボット・アニメに新風を吹き込む。監督作は1972年のデビュー作『海のトリトン』をはじめ、『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』など多数。最近では『オーバーマンキングゲイナー』他、数々の話題作を手がける。