18回 アート部門 講評

最先端の芸術の革命を待ちながら

今回の応募作には光と音の造形が目立ったが、国際展の普及と現代美術の大衆化によって、レーザー光線やインタラクティブな映像・音響インスタレーションを最近よく見かける。だが現代アートは審美性や五感的なインパクトだけではなく、社会性を重視する傾向が近年際立っており、本展のアート部門では現実と深く関わる批評的な作品も選出されるようになった。とはいえ、例年、大賞は純粋芸術・鑑賞芸術の枠にとどまっている。
社会とアートをつなぐ方向を模索するなら、ソーシャル・ネットワークやビッグデータを駆使するメディアアートこそ、無限の未開地を渉猟(しょうりょう)できる可能性に満ちている。文化庁メディア芸術祭の審査の喜びは、従来のメディア芸術とは異なるかつてないアプローチと手法で、社会認識を刷新させる驚異的で魅惑的な作品に出会うことだ。美術史の流れでも、概念や言語を重視するコンセプチュアルアートは、造形的にはシンプルな作品が多い。約2年間ソマリアの海賊に襲われた59隻の船舶を調査分析した審査委員会推薦作品『Double Standards-Somali Seajacks 2010-2012』は、まさにそうした流れを組む優れた作品といえるが、身体的受容が重要な展示会場で、伝えたい内容が包括的なレベルで即時に理解されるかというと難しいだろう。

今回の優秀賞の作品群はみな大賞にふさわしい高度な創造的クオリティを示している。しかし、単純に社会的批評性と、豊かな造形的完成度のパラメータで見る場合、どちらかの極のポールに振れかねない。いつかその両者が融合し、消費にくみすることのない、未来へのメッセージを伝える作品と出会えることを夢見ている。最先端の創造的実験と造形には胸が躍るが、同時に各人の批評性を促し、劣化し続ける世界環境の変化を食い止めようとする息の長い営為も精神を高揚させてくれるからである。素晴らしい現代芸術こそ未来への比類なき心の糧だと思う。

プロフィール
岡部 あおみ
美術評論家
東京都生まれ。パリのポンピドゥ・センターで「前衛芸術の日本1910-70」展(1986-87年)に関わり、パリ国立高等美術学校では日本の文化と現代美術の講義を担当。武蔵野美術大学芸術文化学科で12年間専任教員として芸術と社会について実践的な講義と活動を行い、ニューヨーク大学でも1年間研究に携わる。95年の震災後、阪神アートプロジェクトを企画、2013年春に松島で「ジョルジュ・ルース アートプロジェクト in宮城」を企画・実施する。現代アートを支える人々と対話を行うCulture Powerのウェブサイトを創設。資生堂ギャラリー・アドバイザー。著書に『アート・シード─ポンピドゥ・センター美術映像ネットワーク』(リブロポート、93年)、『アートと女性と映像─グローカル・ウーマン』(彩樹社、03年)他。映像作品に『田中敦子 もうひとつの具体』。