第16回 マンガ部門 講評
マンガのゼロ年代、10年代に応える賞として
相田裕『GUNSLINGER GIRL』と石塚真一『岳 みんなの山』というゼロ年代にデビューをし、その後約十年をかけて完結した2作品が優秀賞となったことは、日本マンガのゼロ年代における達成──それまでの戦後ストーリーマンガの継承とそれへの批評性を持った作品が成功したこと──を正しく評価することができたという意味で、本賞にとってたいへん喜ばしいことであったと考えている。 また海外作品2作品の受賞は話題となるだろう。ことブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテン『闇の国々』の大賞については、すでに世界的に評価が定まった作品への贈賞であり、「いまさら」という意見も聞かれるかもしれない。一方、これまでマンガといえば日本のものであり、バンド・デシネ作品は「日本国内のマンガ」とは独立のものであると見られる傾向が強かったことも事実である。だがその傾向は近年、急速に薄れつつあり、大きく日本国内の市場や読者たちが「マンガ」を捉える枠組みのありようの変化と言ってよいだろう。今回の贈賞結果は、まさにこのような状況の反映と言える。 他方、こと国内の作品の選考においては、できるだけ特定の作品形態に偏らないような注意が払われていた。それは審査委員会推薦作品のラインナップに如実に表われており、マンガの発表形態の多様化への対応とも解釈されようが、とかく軽視されがちなギャグマンガや学習マンガへの目配りは、審査委員会のうちで共有されていたことは改めて記しておく。 マンガ発表の形態の雑誌媒体から電子媒体への移行という背景もある。審査委員会推薦作品の山内泰延『男子高校生の日常』が「ウェブで公開されたコンピュータや携帯情報端末等で閲覧可能なマンガ」という枠で応募されたことは記しておきたい。本作は閲覧無料のウェブでの連載発表後、それをまとめた単行本の販売によりマネタイズするというモデルの成功例(十万部オーダーのセールスがあり、テレビアニメーション化もされた)である。紙から電子への移行期にある日本マンガのビジネスモデルを示すものとも解釈できよう。