第8回 マンガ部門 講評
今回の受賞作はマンガの「多様性」に満ちた顔ぶれとなった
マンガの価値はそれぞれの作品に対して読者一人ひとりが決めるものであって、公の賞を受けようが受けまいが、作品そのものの価値に変化が生じるわけではない。しかし"文化"としてその年の記念すべき作品を選び贈賞することに意味がある。一、世界中の優れた作品を募り、マンガ文化の多様性と広がりをお互いに確認し、かつ、世界の共通語としてのマンガの心を共有したい。一、毎年あまりにも多くのマンガ作品が発売されるがゆえに、世間的な注目をあびないままとおりすぎていく秀作もある。賞を機会に「まだお読みでない人は、ぜひ気付いて下さい」というアピールになる。一、マンガ大国といわれている我が国だが、外国に紹介される作品の多くが「大ヒット作」か「アニメ化された作品」だ。日本のマンガの魅力と底力はその「多様性」にあるということを、もっと広く知ってもらいたい。多様な価値観を認めあうという日本の心がマンガ表現の広がりを生みだしたのだから。海外からのマンガも、ぜひ受賞してもらいたいと願っていたのだが、今年は例年にもまして実力作ぞろいで、うれしい悲鳴をあげながらの充実した最終選考会となった。結果として今回の受賞作は、はからずも「多様性」に満ちた顔ぶれとなった。読者の皆さんにはぜひ、受賞作だけではなく、推薦作品も(まだお読みでないのなら)目をとおしていただきたい。オンライン作品も年々充実してきている。紙に描く表現とは違う、デジタルならではの見せ方を期待している。紙に描こうがデジタルで表現しようが、「心にひびくドラマ性」が作品の力になることに変わりはない。「デジタルでできること」から一歩進んで「デジタル作品だからこそ表現できる世界が、ドラマ性を高める」時代が来ている。この分野の今後が楽しみだ。
プロフィール
里中 満智子
マンガ家
大阪市生まれ。高校在学時に『ピアの肖像』で第1回講談社新人漫画賞を受賞。1974年、『あした輝く』『姫が行く!』の両作品で講談社出版文化賞受賞。代表作に『あすなろ坂』『愛人たち』『アリエスの乙女たち』『ギリシア神話』など多数。現在、『万葉集』の世界を描いた『天上の虹』を描き下ろし単行本という形で執筆中。大阪芸術大学芸術学部キャラクタ-造形学科教授、マンガジャパン事務局長。