25回 アニメーション部門 講評

フォーマットの 枠組みを超えて

今回初めて審査委員として参加して、本芸術祭の特異な立ち位置を改めて意識させられた。それは多種多様なプラットフォーム(映画/テレビ/配信等)やフォーマット(長編/短編/シリーズ/ミュージックビデオ等)のもとで成立した作品群を一括して審査対象とする点である。評価軸をどこに置くかという審査上の困難は避けがたいが、各フォーマットのあり方について考えさせられる機会として貴重な体験であった。
全体を通じてまず挙げるべきは、フォーマットとしては「古い」側に位置する劇場長編分野の充実である。物語やテーマの取り扱いについては平準化・ステレオタイプ化の傾向も散見されたが、映像面では作画・美術・撮影のコンビネーションがきわめて高いレベルで各作品が拮抗しており驚かされた。個人的には、洋画を意識した絵づくりと演出によって従来の商業アニメの「リアリズム」を超えた地点に到達した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』と、邦画のプログラムピクチャーや演劇をパッチワークしてカオティックなエネルギーを放った『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の2本が印象に残った。
両者とも実写映画を参照枠とすることで、かえってアニメーションのみが持ちうる力を発揮していた点が興味深い。
テレビシリーズに関しては、標準的な1クール30分ものとしては異例のアートスタイルと展開を見せた『Sonny Boy』が群を抜いていた。ソーシャル・インパクト賞の『PUI PUI モルカー』については、欧米と比較してマイナーなポジションにとどまってきた日本のストップモーション・アニメーションの受容状況を塗り替えた意義を高く評価したい。
最後に、より作家志向の強い個人作品の分野で、重鎮の山村浩二が『幾多の北』で初の長編を手掛け、彼の短編群と変わらぬ緊張を持続してみせたことにも触れておきたい。短編作家の長編への進出は世界的にも増加傾向にあり、その意義と可能性は今後の課題となっていくことだろう。

プロフィール
権藤 俊司
アニメーション史研究者/東京工芸大学准教授
東京大学文学部卒業後、海外アニメーションを中心とした研究活動を行う。アニメーション・映像専門誌にアニメーション関連記事を執筆すると共に、2001年度より東京造形大学非常勤講師としてアニメーション史を担当。主な著作に『ユーロ・アニメーション』(フィルムアート社、共編)、『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと、監修)、『イタリアアニメーションの世界』(プチグラパブリッシング、項目執筆)等がある。