第10回 アート部門 講評
【作品カテゴリ別講評】インスタレーション
インスタレーション作品は大型の映像プロジェクションを空間的に展開するもの、彫刻的なもの、インタラクティブ性をもつものと多様な作品が見られた。バーチャル、フィジカルいずれにせよ目の前のリアリティに果敢に立ち向かっていく女性ボクサーの姿をとらえた『front』はシンプルだが、視覚的インパクトとセンシャルな感覚で新鮮だった。ハイスピードカメラですれ違う車中の人物を肖像としてとらえた『Drives』も、決して凝視することのできないすれ違う人々をより古典的なポートレートに転じたという意味で、そのアンビバランスが興味深かった。そのほか身体の動きが水の音を引き起こす『AQUATIC』、昆虫のランダムな動きと観客の動きが相乗して抽象絵画を生み出す『Media Flies』など、着想はとりたてて新しくないがインターフェイスと成果が洗練された作品、羽毛を夢幻的に浮遊させた『浮く冬』、塗り分けたピンポン球をピクセルにみたてたローテクが笑いを誘う『PingPongPixel』など、身近な素材を詩的かつ温かみをもって変容させた立体作品が印象的だった。
プロフィール
長谷川 祐子
キュレーター
京都大学法学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。金沢21世紀美術館学芸課長、芸術監督を経て、2006年4月より東京都現代美術館事業企画課長、多摩美術大学芸術学科特任教授。国際美術館会議理事。内外で多くのビエンナーレ、展覧会を企画する。最近の展覧会:「ネオ・トロピカリア」「スペース・フォー・ユア・フューチャー」(東京都現代美術館)、「マルレーネ・デュマス-ブロークン・ホワイト」(東京都現代美術館)、 「ニュー・センソリアム」(MITリスト・ヴィジュアル・アーツ・センター)、「メディア・シティ・ソウル」(ソウル市美術館)。