10回 アート部門 講評

【作品カテゴリ別講評】映像

この数年間、文化庁メディア芸術祭の審査から離れていたので、久しぶりに戻ってきて参加した今回の審査は、興味深いものだった。まず感じたことは、新人の登竜門的な存在である「学生CGコンテスト」で活躍している作家たちが、やはりここでもレベルの高い作品を発表しているという点。この現象に関しては賛否両論あるだろうが、個人的には喜ばしいことだった。次に感じたことは、いわゆるデジタルな制作環境から生み出されてくる合成技術を駆使した作品が多数あったという点。技術的には商業映画で行なわれているVFXと変わらないが、映画では見られない個人的な問題意識をもとにつくられている、その視線にユニークさを感じた。ただ作品として、あるメッセージを見る人に明確に伝えることに成功しているかという点には疑問が残る。全体としての感想は、アート部門の映像として、存在を際立たせるような作品が少なかったこと。これは作者というよりもメディアアートにおける映像表現自体が現在抱えているひとつの問題点だと思う。

プロフィール
原田 大三郎
多摩美術大学教授
1983年、筑波大学大学院芸術学部総合造形コース卒業。坂本龍一、安室奈美恵、小室哲哉、globe、LUNA SEAなどの国内外コンサートツアーやプロモーションビデオの映像演出、また映画のオープニング映像やVFXなどを担当。1993年、NHKスペシャル『驚異の小宇宙・人体2 脳と心』CG監督。1994年、第1回日本芸術文化振興賞受賞、マルチメディアグランプリ '94 MMA会長賞受賞。2001年5月より SHARP『AQUOS』VP制作。現在、多摩美術大学情報デザイン学科教授。