25回 エンターテインメント部門 講評

それでもおもしろい ものを!という信念 が心を動かす時代。

コロナ禍での生活変化そのものがテーマだった昨年とは違い、今年は、新型コロナウイルス感染症という異常が日常になった世界に生きながら、「それでもおもしろいものをつくるのだ」という信念(もはや執念)が垣間見えた作品が多かったし、それに感動を覚えた。クリエイティブはもがくことであり、苦しいことをバネにした企画こそが多くの人の心を動かすのだと確信した審査だった。大賞に選ばれた『浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~』は、長く続いている番組だが、安彦良和さんという天才の起用による「神回」を生み出し、番組の趣旨や企画のすごさに改めて強い光を当てたことが受賞につながったと思う。狭い空間での撮影はとてもコロナ的で地味な制作だが、そのなかでも圧倒的なクリエイティビティを見せつけた本作品は、これからのテレビ番組にはまだまだすごい可能性があるぞ!ということを証明しただろう。まさに、「それでもおもしろいものをつくるのだ」という執念が生み出した大賞だと思う。
その他にも、『新宿東口の猫』や『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA』などのエッジの効いたクリエイティブや、日本中の工場を回って音を採取しながら、圧倒的に美しいアウトプットになっている『INDUSTRIAL JP ASMR』、さらに、シンプルなストーリーながら驚く展開と丁寧な画づくりをした『viewers:1』も、ぜひたくさんの人に見てほしい作品だと言える。個人的には、新しい技術やデバイスに頼った作品よりも、光を見つけようともがいている企画に心が惹かれたし、これからの時代の可能性を感じた。その意味で言えば、『VR Sandbox』を生み出した13歳の才能の煌めきが眩しく、彼の未来にワクワクした。そして今後、どういう世界になっていても、「それでもおもしろいものをつくるのだ」という執念から生まれた画期的な作品に出合えることにも、心から期待したい。

プロフィール
小西 利行
POOL INC. FOUNDER/ クリエイティブ・ディレクター/ コピーライター
大阪大学卒業後、1993年博報堂入社。コピーライターとして制作局に配属。2006年同社退社後、株式会社POOL設立。コンセプト開発、商品開発、商業施設開発、服飾デザイン、ITクリエーション。博報堂出身。クリエイティブ・ディレクション、コピーライティング、WEB&インタラクティブコミュニケーション開発、また、都市開発や施設開発も手がける。主な受賞歴:CLIO 、ニューヨークADC、ONE SHOW、TCC賞、ACC賞など多数。TCC審査員、宣伝会議賞審査員、ENGINE 01 文化戦略会議メンバー。