第17回 マンガ部門 講評
マンガ表現の多様化とともに
本年度のマンガ部門において、まず喜ぶべきは応募数の増加である。また、商業的に大きな成功を見たメジャー作品から、ごく個人的な作品までと、その幅においても大きな広がりを見せたことは大変喜ばしい。
現在の日本において「マンガ」とはほぼ「物語マンガ」のことを指す。またこの範疇では商業的な成功と表現としての質の高さが矛盾しないことはよく知られている。そのことは現在のマンガ読者の「読み」の確かさ、審美的な健全さを示すものである。本年度の大賞贈賞はその反映ともいえる。ここでいう「物語マンガ」とは、長大なページ数を用い、多くの場合、長期間にわたる雑誌連載を基盤とし、複雑で多様な物語を語るものである。本年度の応募作品も多くはこの形式に相当する。また本賞に関心を持つ人々もまた、おそらく「マンガ=物語マンガ」という前提を共有していると思われる。だが広義の「マンガ」表現とはその限りのものではなく、もっと多様な形式を含むものである。本年度の応募作品は、その意味でも多様性に富んでいた。先述の「メジャー作品」とは「物語マンガ」であり、大量複製・流通を前提にした表現である。一方の「個人的な作品」には、大量複製を拒むようなハンドメイドなものなども含まれる。後者の場合、物語内容よりも「読む」行為そのものの体験を前面化させることもある。先述の「幅の広がり」とは、このようにも捉えられる。また本年度の審査過程において、応募作品を前にして「"マンガ"の範疇に含めてよいか」という議論が少なからず行われたことも、この豊かな「広がり」を更に具体的に示すエピソードであろう。
「マンガ=物語マンガ」という枠組みは絶対のものではない。近年のマンガ研究では、これまでマンガ言説にとって主流とされてきたこの前提の相対化が進められている。本年度の応募状況と審査過程は、そうしたマンガを巡る知の潮流と呼応するものともいえよう。