25回 エンターテインメント部門 講評

混沌のなか、 希望への旅、 エンターテインメント

第23回文化庁メディア芸術祭からエンターテインメント部門の審査委員に加えていただき、3年目となる今回は主査を賜り、皆さんと審査を行ってきました。2020年より新型コロナウイルス感染症の状況が深刻化して以来、我々は変異を繰り返す新型コロナウイルスと共存してきました。
スペイン風邪のパンデミックから100年。ワクチンの普及速度は目を見張るものですが、情報化、グローバル化した世界のなか、100年前とは違った混迷の様相を呈しています。第24回は、このような状況下だからこそ、応募作品の数が増加したのだと心強く感じたものですが、今回の全体の応募数の合計は、前回3,693だったのに対し、3,537と減じています。
エンターテインメント部門全体の応募数は、前回626に対して489。各カテゴリで見ると、ゲームは130から79、映像・音響作品は287から247、空間表現は69から60、プロダクトは90から61、ウェブ・アプリケーションは50から42とどれも減少しています。特に集団で制作する作品分野は顕著です。リモートによる分担での制作は可能ですが、やはり空間でマインドを共有し、共同制作することの意義、重要性を、私自身も日々のゲーム制作を通じ痛感しています。
しかし、この状況下だからこそ人々は、過去の名作から現在の話題作、そして多くの個人の作品まで、幅広く触れる機会を拡大させてきました。そして同時に、リアルな、ライブとしてのエンターンテインメントの価値も再認識し、渇望しています。私の専門分野であるゲームもまた、一人で楽しむ作品から、コミュニケーションを楽しむ作品まで、ステイホームのなかでプレイヤー層が拡大したようです。どんな状況であれ、いや、こういった状況だからこそ、人々は「別世界への旅」を求めています。これこそがエンターテインメントの本質なのではないでしょうか?
今回エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した『サイバーパンク2077』は、身体性の拡張、強化を3D技術でリアルに描いた最先端の作品です。
ロールプレイングゲームには、2つの大きな始祖的作品があります。俯瞰視点で世界を描く『ウルティマ』(1981)、主観視点で冒険を重視した『ウィザードリィ』(1981)です。日本では、その特性を融合させた第三者視点のRPGが主流となっていますが、『サイバーパンク2077』は主観視点のオープンワールドという欧米の正統な進化系として、技術、格差などを主軸にした、まさに現在の時代性を描いた作品でした。
そして、大賞を受賞した『浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~』。この番組は、マンガ家の作画現場に密着し、その技に迫るドキュメンタリーですが、本作の安彦良和氏の回では、氏の究極の作画術に、ただただ驚愕させられました。マンガ、アニメとともに育った我々の世代にとって、安彦氏が長きにわたる創作のなかで到達した技と表現は、現代の葛飾北斎を見る思いでした。デジタルとアナログの2つのエンターテインメントについて語らせていただきましたが、時代とともに、新たな技術がプラットフォーム、産業を産み、クリエイターを育てていきます。文化庁メディア芸術祭でも近年、部門のカテゴリーを超える作品が年々増加していて、その垣根は良い意味でグレーになっています。
ジャンルを超越した新時代のエンターテインメント作品の息吹が、世界各地で渦巻いています。それと同時に、ジャンルの原点に回帰するコンセプチュアルな作品も研ぎ澄まされていくでしょう。世界は、グローバル化、情報化によって共通化されてきた反面、人々は、過去を見直し、国や地域、らしさという足場を固める重要性を、コロナ禍のなか模索しているように感じます。
歴史は、今までもこうして進み、振り返り、改修し、文化を育んできたはずです。今後も世界のクリエイターが多様な作品を生み出し、多くの文化のうねりが紡がれていくことを信じています。

プロフィール
時田 貴司
日本
1966年、神奈川県生まれ。演劇活動のアルバイトとしてファミコン時代よりドット絵でゲーム制作を始める。プランナー、ディレクターを経て、現在はプロデュース業務に従事。代表作は『FINAL FANTASY Ⅳ』、『LIVE A LIVE』、『クロノ・トリガー』、『半熟英雄』シリーズ、『パラサイト・イヴ』、『ナナシ ノ ゲエム』など。現在は株式会社スクウェア・エニックス第二開発事業本部ディビジョン6 プロデューサー、株式会社Tokyo RPG Factory取締役。一般社団法人コンピュータエンターテイメント協会人材育成部会では後進の育成にも参画している。