15回 エンターテインメント部門 講評

体験の共有をデザインするエンターテインメント

私自身が今年の作品で印象に残っているものは、ほとんど「イベント」が絡んでいたように思う。大賞の『SPACE BALLOON PROJECT』はもちろん、体験型の展示作品だったり、映像作品のように見えて実はストリーミング放送とソーシャルメディアを使った体験の共有としてデザインされていたものが多かったのではないか。人々が「それ」を求めたということが、人とメディア環境を考える時に大きなヒントを提供しているように思う。
ネット環境が人々の生活の細部にまで侵入し、ソーシャルメディアがそれぞれの人にとって、それぞれの情報を提供し始めた結果、多くの人が同じものを見る、体験するといった機会が減った。その反動か、みんなで同じものを見て盛り上がる、といったカタチのものがたくさん登場し、人気を得たことは2011年の記憶として刻みたい。一方、エントリーされたコンシューマゲームの低調は今年も続いた。
これはゲームの衰退なのだろうか? しかしソーシャルアプリなどは多くの人たちが楽しんだ。また『アナグラのうた』のようにゲームデザイナーが作ったナニカもある。その体験はかつてのゲームのある部分を確実に掴んでいる。ゲームはメディア環境の中に溶け込み、それをゲームと呼ぶ機会がなくなっただけのような気がしないでもない。今はまだ審査のまな板に乗らないナニカにも目を配っていくことを怠らないでおきたい。

プロフィール
伊藤 ガビン
編集者/クリエイティブディレクター
編集者・クリエイティブディレクター。