第24回 アニメーション部門 講評
経験とイマジネーション
今回、第24回文化庁メディア芸術祭に審査委員として参加することになった当初、私に取捨選択するだけの責務を全うできるかと不安であったが、たくさんの応募作品に触れていくに従いある感覚と同じだと感じた。どこかで味わっている、そうだ、書店で見ず知らずの作家の頭の中を覗き具現化された知性に触れる畏怖の念である。そしてそれを越えて好奇心と驚きを持って相対する歓びを体験することとなった。主に短編アニメーションの審査中、長編アニメーションの小型版的に陷ることなく、短いながらも作者の想いは凝縮され、今にも爆発しそうな「創る」という「かたまり」となり人々に不可欠な要素であるイマジネーションを喚起し、未知の世界への「経験」へと誘われた。門外漢で恐縮だが、それはバッハがチェンバロという現在のピアノより少ない鍵盤数で、大所帯での表現にも勝るイメージの広がりを今の私達に伝えているように。私はいまだ現役のアニメーターなのでそこはやはり、アニメートの優れたものを重視して観たが選に惜しくも漏れた作品も多々あった。例えば硬い釘をCGで柔らかく動かして命を与えたとしても、それは釘というキャラクターを浮き彫りにはできないしアニメートが上手くても技術の品評会になってもいけない。テーマとアニメートとの関係を再度確認していくことがこれからの飛躍となるのを期待したい。大賞となる『映像研には手を出すな!』は私の現職に関わることと相まってオンエア当時から注目していた。そしてそれが単なる楽屋オチに埋没せず、たくさんの物をつくる人々の共感を呼び起こし長編、短編にかかわらずアニメーション作品として大事な「こうだったらいいな、こうしたいな」というイマジネーションを膨らませ、観客と一緒につくっていく同時性を持って経験させてくれた監督に感謝である。最後になるが未曾有の渦中で次回の応募作品群がどのように影響し、さらなる視点で私たちに迫ってくるのか、つくり手の意義がこの文化庁メディア芸術祭に反映することを願う。