19回 エンターテインメント部門 講評

全身勉強家の毛穴から染み出した体液

今年で3年連続審査委員という大役を仰せつかったわけであるが、エンターテインメント部門だからこそ触れることができる、テクノロジートレンドの変遷を目の当たりにした有意義な体験であった。現在、シンギュラリティ(技術的特異点)における2045年問題が話題になっているが、人工知能がクリエイティビティを発揮している今だからこそ、なおさら、人間が描くべき美とはなにか?を考える絶好のチャンスだと感じている。そして今年の大賞は岸野雄一の『正しい数の数え方』である。岸野は「京浜兄弟社」や「マニュアル・オブ・エラーズ」の活動で辺境音楽の再解釈を世に問い、「ギラギラナイト」では非クラブDJの先駆として和モノヴァイナル(レコード)の無頼さを再発見し、「ヒゲの未亡人」では男の根に潜む女性性を即興的なパフォーマンスで解放した全身勉強家である。僕と岸野はここ30年近く、数限りない地下文化貢献活動に取り組んできた戦友といっても過言ではない関係であり、友人を推すという行為は否が応でも慎重にならざるをえないわけであるが、僕は絶対の自信を持って推薦した。この結果を両手を挙げて賞賛したい。僕のメディア芸術に関する批評軸は、「"テクノロジーと人間の潜在能力のギリギリの格闘"がそこに映し出されているかどうか」なのであるが、岸野の『正しい数の数え方』には、その姿が脈打っている。大道芸的如何わしさと、タイニー・ティムやピーウィー・ハーマンの文脈を更新する、オルタナティブ・スタンダップ・コメディが核融合を起こしたかのような世界は、テレビ番組『できるかな』のノッポさんの物言わぬ純朴さと『つくってあそぼ』におけるワクワクさんの捩れたインベンション、『カリキュラマシーン』のニューウェーブな実験性や、グラフィックテクノロジーの実験の場としても機能した『ウゴウゴルーガ』など、エクスペリメンタルな日本の子ども番組を彷彿とさせるのだ。この舞台には、プロジェクションマッピングもVRも介在しないが、全身勉強家の毛穴から染み出した体液が迸(ほとばし)っている。これぞ、メディア芸術だ!

プロフィール
宇川 直宏
現在美術家/京都造形芸術大学教授/DOMMUNE主宰
1968年生まれ。映像作家、グラフィックデザイナー、ミュージック・ビデオディレクター、VJ、文筆家、京都造形大学教授、“現在美術家”など、多岐にわたる活動を行なう全方位的アーティスト。2010年3月に個人で開局したライブストリーミング・チャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数となり、国内外で話題を呼ぶ。「DOMMUNE」は、平成22年度[第14回]文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。