23回 アニメーション部門 講評

排除から包摂へ、そして生きる力へ

どの作品にもキラリと光るものがあり、選択をしないといけないことは、私には苦しくつらかったが、ここでは、メディアとテーマという視点から振り返ってみたい。アニメーション部門に応募できる作品は、映画、テレビ、ネット配信作品などの条件がある。それぞれのメディアの特徴を生かした作品づくりがなされているが、長期間放映されるテレビ番組は、一部(最終話など)だけが応募されるケースもあるため、1話完結の映画作品やネット配信作品と比べて、難しい評価判断が要求されることがある。今回はテレビ作品が受賞作品になかったのは、残念であった。テーマにおいては、それぞれ現代社会に対する批判装置として機能する作品が多かった。大賞『海獣の子供』やソーシャル・インパクト賞『天気の子』は、若者の繊細な心、親や周りの大人との距離、集団のなかの孤独感など、古くて 新しいテーマが心に響いた。審査委員会推薦作品『プロメア』、『甲鉄城のカバネリ海門決戦』、『絶望の怪物』は、マイノリティ排除、そして包摂(あるいは包摂の不可能性)の表象として読めるテキストであり、現代社会に蔓延する、「自分とは違う他者の排除」の傾向に鑑みると、非常に考えさせられる作品であった。困難に立ち向かう強く繊細な女性の生き方を描く作品も目立った。優秀賞『ロング・ウェイ・ノース地球のてっぺん』、推薦作『白蛇:縁起』、『きみと、波にのれたら』、『空の青さを知る人よ』、『どろろ』の少女たちは、悩みながらも自分で考え、実行し、生き方をつかみ取っていく。短編にも興味深い作品が多かった。優秀賞『ごん』は、道徳の教科書でもおなじみの物語であるが、人形を使った高度な技法を通じて、罪と贖罪のテーマが心に刺さる。総じて、審査は苦しかったが、これほど多くの作品を鑑賞できたことは、とても楽しく幸せな時間であった。皆様もぜひ全作品を観て、感じていただきたいと思う。

プロフィール
須川 亜紀子
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院都市文化系教授
英国ウォーリック大学大学院映画・テレビ学科博士課程修了。PhD。専門は、アニメーションや2.5次元舞台などのポピュラー文化論、オーディエンス/ファン研究。日本アニメーション学会副会長。テレビアニメーションにおける少女表象やオーディエンスについてジェンダーの観点から研究。最近は「2.5次元文化」における女性ファン研究に従事。主著に『少女と魔法―ガールヒーローはいかに受容されたのか』(2014年日本アニメーション学会賞受賞、単著、NTT出版、2013)、『Japanese Animation: East Asian Perspectives』 (共著、University Press of Mississippi、2013)、 『Teaching Japanese Popular Culture』 (共著、AAS、2016)、『Shôjo Across Media』 (共著、Palgrave Macmillan、2019)、 『Women's Manga in Asia and Beyond』 (共著、Palgrave Macmillan、2019) 、『アニメ研究入門<応用編>』(共編著、現代書館、2018)、『アニメーション文化55のキーワード』(共編著、ミネルヴァ書房、2019)など。