25回 エンターテインメント部門 講評

悩める世の中へ 贈る作品

文化庁メディア芸術祭は、アナログ人間な自分とはジャンルが違う、少し遠いコンペのように感じていた。今回、思いがけずエンターテインメント部門の審査委員でお声がかかり、生活者を代表するような気持ちで審査会に参加することにした。応募作品は映画からテレビ番組、空間表現、広告、プロダクト、ゲーム、アプリケーションとバラエティに富んでいて、これらを同じ土俵で審査していいのか最初は戸惑いがあった。
しかしエンターテインメントという括りのなかで言えば、日々大量の情報とエンタメを浴びて生きていている私たちが本当に心を動かされ、価値あるコンテンツに出合う機会はそう多くない。審査会という特殊な場所で出合う作品ではあるが、純粋に感動したり、意識や世界のあり方や見方を変える力があるか、そんなことを意識して審査に挑むことにした。
初めてということもあり、審査にはかなり時間がかかったが、現場で各作品に対してジャンルが違う審査委員たちの意見を聞き、議論ができたのはとても有意義な時間だった。
コロナ禍で先が見えず、多くの人が生き方に迷っている時代、やりたいようにできないのはエンターテインメントも同じ。そんななかでも、逆境を乗り越えたり、逆手に取ったり、どんな状況でも動じない突き刺さる表現であったりとさまざまな解決策を応募作品から受け取ることができた。今だからこそエンターテインメントは、心を照らす明るい光であってほしいと思う。私も含めて悩める世の中へ、エールのような作品を選考できたと思う。

プロフィール
えぐちりか
アートディレクター/アーティスト
1979年、北海道帯広生まれ。2002年明星大学造形芸術学科卒業。2004年多摩美術大学大学院工芸科修了。同年株式会社電通入社。コミュニケーションデザインセンター局でアートディレクターとして働く傍ら、アーティストとして国内外の美術館で作品を発表。ひとつぼ展グランプリ、岡本太郎記念現代芸術大賞展優秀賞など受賞。