第20回 アニメーション部門 講評
映画とどう向き合うか
アニメーションという表現媒体の多様さと面白さを再確認した審査だった。特に高密度で描かれた『君の名は。』と余白が多い『父を探して』はアニメーション映画として好対照の作品だ。大ヒットした『君の名は。』は、実写を超えた美しい美術、細やかな動きの作画、感情に訴えかける音楽、そして何よりもメリハリの効いた演出、と映画としての完成度が非常に高い作品だ。語り過ぎが気になるが、それも含めて日本のアニメーション映画の新スタンダードになった。一方、アヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリに輝いた『父を探して』は、対照的に情報量の少なさを生かした作品だ。キャラクターや美術の省略にとどまらず、ほぼ台詞もなく、なんの説明もないまま物語は進んでいく。すべては観ている私たちの想像に委ねられたまま映画は終わる。広々とした余白に私たち自身が何かを描かざるをえない映画だ。映画とどう向き合うかを考えさせられる作品である。テレビ作品も映像クオリティが高い作品が揃うなか、『モブサイコ100』と『終物語』の表現の自由さが目を引いた。テレビという媒体を考えると今後もこのような自由な発想の作品がつくられることを願いたい。短編作品では、毛糸玉の哀愁物語『A Love Story』が赤い糸ならぬ毛糸を巧みに操った喜怒哀楽の表現が素晴らしく、これこそアニメーションの醍醐味である。また野良犬の喧噪と団地の哀しみを描いた『Peripheria』、時計屋の人生を9分間に凝縮した『Ticking Away』も、その映像の奥にイメージを広げるアニメーション表現のよさを再認識させてくれた。ほかに審査委員会推薦作品となったイタリアのアニメーションドキュメンタリー『Somalia94 - The Ilaria Alpiaffair』が、世界に真摯に向き合う姿勢が素晴らしかった。今後この分野の作品の応募が増えることを望みたい。