第24回 エンターテインメント部門 講評
この時代を切り開く表現があるとすれば
新型コロナウイルスのパンデミックという状況にあって、表現者がその現実に向き合った作品に強く惹きつけられた。優秀賞となった劇団ノーミーツ(代表:広屋 佑規)の取り組みはその代表例であり、特に(彼らの劇団名も含めて)昨今見かけるようになったネット上でのイベントとして演劇を成立させる試みの活発化を感じさせた。また意図的にその文脈を盛り込んだ表現でなくとも、鑑賞する私自身が、ついその文脈で作品を眺めてしまうことが多く、不思議な感慨があった。とりわけエンターテインメント部門では『諸行無常』『Canaria』などVR作品を評価する機会が多かったため、半ば必然的に現実空間で人と触れ合うという今日的なテーマをそこに読み込むことになる。同じ意味ではソーシャル・インパクト賞を受賞した『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』も、外出困難者の就業支援という優れたコンセプトはもちろん、他者との接触というやはり今日的なテーマを見出すことができたのが興味深かった。むろん、それは作品がもともとポテンシャルを備えていたということである。つまり私たちの現実が潜在的に抱えているものに対する批評的な視座が、作品に存在していたがゆえの表現だったわけだ。この状況下で、結果的にそうした気づきを与えてくれる作品が多かったことは大変喜ばしかった。また海外からも数多く応募されていたことも印象的だった。世界規模の事件の最中だからこそなのかはわからないが、ロックダウンのなかで世界が分断されるばかりではなく、表現者たちがグローバルな活動を志向していることは喜ばしい。とりわけ今年は新人賞となった『ウムランギ・ジェネレーション』のように、個人的に注目しているビデオゲーム方面で質の高い作品が多くの国から寄せられており、うれしく思った。部門全体の動向として、分断を強いられた表現がテクノロジーの援用によって社会との接点を維持あるいは回復する姿が、ひときわ印象に残ったように思う。