14回 マンガ部門 講評

過去の歴史的意義の検証への興味

今回、マンガ部門の最終審査に残った候補作の中で、審査員の票を集めたものには、歴史を扱った作品が多かった。
古代ギリシャやマケドニアの興亡を描いた『ヒストリエ』、開国間際の江戸時代の歴史が分かりやすく描かれた『風雲児たち 幕末編』、連合赤軍を扱った『レッド』などである。
そのほかには、操縦すれば死を招くロボットの戦いを描いた『ぼくらの』、愛猫と作者の日常をギャグでつづった『俺とねこにゃん』、クライマーの孤独な戦いが描かれた『孤高の人』などが、審査委員の議論の対象となった。
そして、大賞を射止めたのは『ヒストリエ』だった。現在、連載中であり、ストーリーは長編の序章にすぎず、早過ぎるのでは? との意見もあったが、序章であっても、充分に大賞に価するとの意見が大勢を占めた。

少年マジシャンの成長と活躍を描いた『ファンタジウム』や、書道部の高校生の活動ぶりと書道の奥深さを描いた『とめはねっ! 鈴里高校書道部』のように、専門的知識をマンガで披露する力作もあった。かつて、マンガの主流であった荒唐無稽な作品が、ほぼなくなってきたことは寂しい気がするが、これも、マンガ文化の成熟ととらえるべきだろう。
文化は社会と呼応する。高齢化社会になりつつある日本は、未来への希望や展望より、過去の歴史的意義の検証に、興味を移しているのかもしれない。

プロフィール
永井 豪
マンガ家
1945年石川県生まれ。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、67年『ぼくら』誌上にて『目明しポリ吉』(講談社)でデビュー。翌年『少年ジャンプ』で『ハレンチ学園』が連載開始となり、たちまち大ブームになる。以後、現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を発表し続けている。代表作には『ハレンチ学園』『デビルマン』『マジンガーZ』『バイオレンスジャック』『キューティーハニー』など多数。05年より大阪芸術大学キャラクター造形学科教授。