第25回 アート部門 講評
それはもう 始まっていた
結局パンデミックが収束しないまま過ぎていった2021年を、私たちは後にどう振り返るだろうか。
山内祥太『あつまるな!やまひょうと森』、花形槙『Uber Existence』はコロナ禍をきっかけに需要が増大したデジタルコンテンツやサービスに言及しながら、メタバース時代にシフトしつつある私たちを切り取った。後者はコロナ禍によってさらに鮮明になった社会構造を背景にし、それはコミュニティのなかでの自分の位置と、そこから相対的に社会を意識させるダニエル・ヴェッツェル/田中 みゆき/小林 恵吾×植村 遥/萩原 俊矢×N sketch『あなたでなければ、誰が?』ともつながるだろう。さらには撮影、機械学習、画像処理技術などを組み合わせることで新たな身体・映像表現を提案したELEVENPLAY x Rhizomatiks『S . P . A . C . E .』はソーシャル・ディスタンスを創作のきっかけとしている。
パンデミックが始まって1年以上が経過した2021年。「非日常」そのものではなく、すでにそれ以前から変化していたリアリティが前景化し加速化したことを丁寧にすくい上げ、思考し、または実験のきっかけにしたパフォーマティブな作品が印象に残った。
最後に付け加えると、実はコロナ禍に端を発した作品以上の件数に上ったのが、AI技術を用いた表現であった。もちろん数年前から増加傾向があったのかもしれないが、マシンの介入による社会変化や環境制御の可能性、マシンと人間の関係性の問い直しとそこから生まれる新たな美学、データセットの偏りから生じる社会的格差といった実問題など、アーティストの動機や関心は多岐にわたった。残念ながら、応募資料だけでは技術的な達成度や最終的な表現との関連性が判断しにくいケースもあり、課題も残ったといえる。しかし、学習の結果に対する考察や表現への昇華プロセスなど、今後のAIと創造の深化に期待したい。