16回 マンガ部門 講評

やや残念な日本作品の参加

今回の審査では、突出した日本の作品の参加が少なく、決定がかなり難航した。多くは出版社が作家温存のため、参加を見合わせるという傾向があるのかもしれない。その一方で、欧州やアメリカ、その他外国からの参加は年々増加しており、ウェブマンガの応募もかなり増えてきている。もっともっと変わったかたちのマンガ、意欲的なマンガが増えてもいいと思っているし、もし日本の参加者が減っていっても、「世界中のマンガが対象」という広い共通項で審査するこのマンガ賞には、存在の意義がある。それぞれの国の事情、マンガの発展、土壌の問題等々、違いはさまざまでも、「そこにある意味」を比べることはできるからだ。
そうした観点から、今回大賞に選ばれたブノワ・ペータース(作)/フランソワ・スクイテン(画)『闇の国々』は、バンド・デシネ(BD)の過去作品ではあるが、日本語に訳されたことで、改めてその偉大さに対し敬意を払う結果となった。むしろ賞しないわけにはいかない名作であると言えよう。
優秀賞に推す作品に関しては、審査委員それぞれに推す作品が違い、選出理由や推薦の弁を細かく説明し合いながら、数度の投票を繰り返して、最終的な合意に達した。
選ぶのに困ったというより、競り合ったための難航である。難航したのは優秀賞ばかりでなく、新人賞も同じであったが、それぞれが納得するまで話し合えたので、選出し終えたあとには満足感があった。終えてみれば、よいかたちに整ったと思う。なかでもエマニュエル・ルパージュ『ムチャチョ──ある少年の革命』は印象に残る作品で、BDのなかで新たな道を切り拓くかもしれない、と思うようなコマ扱いとスピード感があった。真造圭伍『ぼくらのフンカ祭』にはマンガの基本に返る楽しさがあり、羅川真里茂『ましろのおと』には実際の音のないマンガであるからこそ可能な、音に対する充分な深さと強さ、そして精神的なアプローチがある。相田裕『GUNSLINGER GIRL』の視点の妙味は、日本のマンガの特徴的な強さであると同時に、危うさでもある。確実性のなさが魅力であるとも言えようか。

プロフィール
竹宮 惠子
1950年、徳島県生まれ。 徳島大学在学中、『週刊少女コミック』(小学館)で「森の子トール」を連載開始。主な作品に『地球へ...』『風と木の詩』『イズァローン伝説』などがある。80年、第25 回小学館漫画賞受賞。同年、『地球へ...』が劇場版アニメーション化される。2000年4月より京都精華大学マンガ学科の専任教授に就任。同年秋より大学での研究として「原画' プロジェクト」を発表。03年からはさまざまな作家を招聘した「原画'展」を毎夏、企画開催し、貴重な原画の保存・公開に努めている。06年よりマンガ学部に昇格。12年日本漫画家協会賞の文部科学大臣賞を受賞。