第18回 エンターテインメント部門 講評
一時間早く家を出て寄り道した
メディア芸術という混沌かつ粗放なカテゴライズ、いやそれがエンターテインメント部門と更に絞り込まれたように装われても、その混沌かつ粗放さは収まりようもなく、映像、ゲーム、ガジェット、ウェブ、アプリケーションというカテゴリーからも作品たちははみ出している。それらを相互に比較し、大賞や優秀賞といった区分をすることがそもそも可能なのか、という初期設定への困惑をどうにか乗り越え、それは「メディア芸術とは何か」「エンターテインメントとは何か」と自分自身に問い掛ける刃なのだと言い聞かせ、真摯な姿勢で審査に臨んだ。
『Ingress』が圧倒的なパワーを見せつけ、審査委員全員一致で大賞に決まった。GPSを駆使し、現実世界に仮想世界のレイヤーを覆い重ねることで「ここ」にいる我々の行動を変える。ポータルをハックするために目的の時間より一時間早く家を出て寄り道してしまう。公園のオブジェや路地の地蔵にこれ程詳しくなったのも『Ingress』効果だ。脳と指先とディスプレイで完結するのではなく、街に出て、身体を使って展開する。心技体がそろった作品だ。『のらもじ発見プロジェクト』も、街に出て、今まで見過ごしていたものをピックアップして拡張する試みとして超刺激的なプロジェクト。個人情報が虚構に組み込まれた作品『親愛なる』も本として実体化することで現実に飛び出た。それらの作品が鑑賞者を通じて現実に還元されるだけでなく、作品が直接的に現実を取り込み、世界ごとプレイヤーを巻き込むパワーは衝撃だ。『口先番長』のしりとりを拡張した独自ルールの構築、『P.T.』のティザー広告をプレイアブル(遊ぶことができる状態)にするという製作環境に対するチャレンジ、『ロストディメンション』の先の展開を知りたいと思わせるベクトルの強さ、『妖怪ウォッチ2 元祖/本家』の作り込まれた街の凄み。ゲームのクオリティとジャンルとしての拡散の勢いも実感したし、審査カテゴリーが無意味化するような、はみ出した作品群が多い応募状況に希望を感じた。