第23回 アニメーション部門 講評
不透明なひとつの先の世界へ、力強く進む
今年度の文化庁メディア芸術祭は応募総数こそ減少したものの、アニメーション部門にかぎっては増加し、レベルの高い作品が多かったように思われる。大賞、優秀賞に惜しくも選ばれなかった作品のなかにも、応募年度が違っていたなら受賞していたのではと思える作品があり、審査委員を大いに悩ませ、実際に審査会のときには悩ましい時間をたっぷりと味わうこととなった。それぞれの作品に対する評価はほんのわずかの差であり、審査委員の好みの差と言って良いレベルの差でしかなかったように感じられた。作品の傾向としては「前へ進む」テーマの物語が目立った印象だった。自分を取り巻く環境などの現状を自力で変えようとする。または、変化を受け入れつつひとつ先の世界を目指すなど、何か見えない先へ進もうとする力強いメッセージを感じる作品が多かったように思う。3年間審査委員を務めさせていただいたが、毎年、何らかの傾向が和洋問わずに見られると言うのは興味深い現象のように思われる。そのなかで、『海獣の子供』が大賞に輝いた。マンガ原作の絵の魅力を余すとこなく表現した画面づくりは見事と言うしかなく、特に後半の十数分間はまさに圧巻だった。前半はやや冗長かと思われるところもあったが、視聴後はそんなことも忘れさせる力強さを持った作品だった。優秀賞となった『ロング・ウェイ・ノース地球のてっぺん』も北極を舞台とする自然の雄大さと過酷さを存分に堪能させてくれた作品だった。シンプルなキャラクターデザインだが、主人公サーシャの強い意志に船員たちと同様に引っ張られる思いだった。今年度からソーシャル・インパクト賞なる賞が新設され、今年は『天気の子』の受賞となった。社会に根付いた影響を与えた作品を、という趣旨でこの賞を選考させていただいた。新海監督のつくり出す耽美な画面づくりは多くの作品とクリエイターに影響を与えている、というのが贈賞の理 由だった。今年は短編作品の受賞も多かった。優秀賞4作品中に3作品が入り、新人賞3作品はすべて短編アニメーションが選ばれた。「アニメーション作品」という一括りで審査をすると、どうしてもドラマチックな長編作品が大賞や優秀賞に選ばれる傾向が否めないのだが、昨年度大賞の『La Chute』に続いて、今年も大賞に相応しい高いレベルの素晴らしい作品がたくさんあったのは私個人としてはとても嬉しく思う。『ごん』は童話でお馴染みの『ごんぎつね』を人形アニメーションで表現した作品。人間側の主観の時はリアルな姿で、動物側の主観の時は愛らしいキャラに仕立ててあり、ごんの気持ちに自然に入れるように工夫されている。舞台空間も広々と表現されていて世界観のなかに見事に入り込むことができた作品だった。『Nettle Head』は、独特の絵と世界観で表現されたアニメーション版『スタンド・バイ・ミー』といったところか。少年期にある、一種の儀式みたいなものを主人公の主観で描き切っていて、不安や恐怖の表現に引き込まれる思いだった。『ある日本の絵描き少年』 は主人公の少年の「絵」で表現するという発想でとても惹きつけられた。友人たちはそれぞれの「友人の絵」になっているという芸の細かさや、一部が実写になっているなどのアイディアで見応えのある作品となっていた。この3作品はドラマという点でも長編に負けない質量を誇る素晴らしい作品であったが、惜しくも賞の選外となった作品にも同じ位の評価の作品が多数あった。また、応募された国と地域も広がりを見せてきているので、さまざまな文化や価値観に基づいた作品も多くみられ、日本式の作風とは全然ちがうアニメーションの可能性を感じさせられた。この傾向は今後も拡がりを見せていくことと思う。大きな期待を感じながらの審査だった。