17回 マンガ部門 講評

独立した表現であるということ

人は何を思い、想像してもよい。考えうるもの・想像できたものを、外に出してよい。言葉はもちろん、イメージを形にしてマンガや絵画や映画といった形態でexpressionするのは、自由だ。想像可能なものは、誰に遠慮することなくすべて描いて(表出して)よい。ただし「自由」は拡張すると他者の自由と衝突するので、その調整として、しきたりや法が存在する。マンガ表現においては、ツールやソフトウェア、ネット環境の発達が創作の多大な支援となってきている一方、取り巻く状況として、表現者を萎縮させるような事柄も数多い。しかし、再度私なりに素朴な原則論を述べるなら、表現物は、表現された途端に自立・独立しているべきものである。角度を変えて比喩的にいえば、表現は、表現されることによって救われるべきだ。
さて、マンガ界では出版各社が設ける新人賞は数多いのだが、一般に開かれた賞は少ない。
人気投票でなく、また国内・外、長・短編、雑誌・単行本・同人誌・ウェブなど発表の形態も問わないという「作品本位」の本賞は、門戸の広さという点で今後も重要性が増してゆくと思われる。本賞審査委員の仕事も二期目、本年度は副査を務めた。審査し選ぶことも「表現」である(結果的に表現になってしまう)という意識で臨んでいる。
今年も、前年度より応募数が増え、審査には一段と力が入った。大賞選考においては、大賞の「器」を巡ってまず議論がなされ、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの、後続の作品や文化面への影響、海外出版の成果なども検討されつつ、『ジョジョリオン』への贈賞となった。続いて優秀賞・新人賞にも力作・清新な作品が並んだ。審査過程では話題に出なかったが、これら8作品はすべて出版元が異なり、今も多くを占める「雑誌連載を単行本化」したのが5作、「ウェブ連載を単行本化」、「海外作品(描き下ろし)の邦訳」「ウェブ発表作」が各1作入賞し、日本マンガの、現在の発表のありようを象徴している。いくつかの話題作の応募がなかったのは残念だが、審査委員会推薦作品を含め、独立した表現として力強く、2013年の代表作と推し出すにふさわしいマンガが揃ったと思う。

プロフィール
斎藤 宣彦
編集者/マンガ研究者
著書に『マンガの遺伝子』(講談社現代新書、2011年)。共著に『マンガの読み方』(宝島社、1995年)、編集・執筆した本に『日本一のマンガを探せ!』(宝島社、97年)、『こんなマンガがあったのか!』(メディアファクトリー、99年)他多数。00年、ネット書店「bk1」創設に参加、編集長、取締役などを歴任。04年以降『青池保子コレクション』(ブッキング)の編纂、『ニッポンのマンガ』(朝日新聞社、06年)の監修、雑誌・コミックスの創刊、09年「サンデー・マガジンのDNA」展の監修(夏目房之介と共同監修)、マンガ施設運営など、マンガ関係の編集・プロデュースで活躍。