第21回 マンガ部門 講評
マンガは終わらない
「マンガは過渡期にある」と言われ続けていたように思うが、最近の話題はネットのタダ読みだろうか。マンガ家自身も手をこまねいていないで対策をとらねばならないらしいが、そんな法律の交渉や経営の能力があったらマンガなんて描いてないと言うマンガ家は多いだろう。私もそうだ。書籍だけではなく音楽方面も厳しいせいで、うちの近所の商店街から書店もレコード店も消えて、薬局とマッサージ店がやたら目立つ。みんな己の肉体のメンテだけで精いっぱいなのだろう。私もそうだ。紙の本とレコードはマニアックな贅沢品になるらしい。特に短編は売り上げが期待されないということで、出版社から敬遠されがちだと聞く。時代を変える1曲があったように、衝撃的な1本の短編マンガがいくつもあったというのに。大賞の『ねぇ、ママ』は母的なものにまつわる短編集で、名盤のコンセプトアルバム1枚を聞くような趣がある。生活のなかの淡々とした会話から無言の見開きのドラマチックな情景へ流れていくときめき。どの人生の一瞬もなんてキラキラと愛らしいことか。この贅沢を手放したくない。こんな名短編集が出版され続け、売れ続けてほしい。優秀賞の上野顕太郎氏は業界内では昔から誉め言葉として「どうかしてる」と言われるギャグ職人である。これを機にどうかしてるぐらい売れてほしい。ギャグの灯を絶やさないために。新人賞の板垣巴留のような若くて凄まじい才能がまだマンガ界に現れることの嬉しさとありがたさ。すぐに「もうマンガは終わった」と言いたがる悲観論者の肩を叩いて「そう言うのはこれを読んでからにして」と『BEASTARS』を渡したい。人様のマンガを審査してあれこれ言えるような身分なのか問題を棚の上の奥の方に納めて3年。失敗とか後悔とか反省とか、恥ずかしいことが山のようにあったが、これも棚にぎゅうぎゅう納めておく。