19回 マンガ部門 講評

愛のマンガとマンガへの愛

マンガを描くキャリアは細々と20年しかないが、マンガを読むほうなら半世紀近く経験があるし、何より私はマンガを愛しているので大丈夫と思い、審査委員のオファーをお受けした。
しかし安易に愛を言い訳に使ってはいけなかった。愛は戦いだと読んできたマンガで学んでいたはずなのに。愛すべき理由を語る難しさと、いくら愛していても理由を突きつけられたなら別れなければならない非情な現実。愛と荷の重さに膝から崩れ落ちそうになる。
足腰は弱いが、かつぐ神輿を決めなくてはいけないのでなんとか踏ん張り、上位にあがってきた作品を眺めると、多くが愛に関するマンガであった。どちらも並じゃない個性を持つ師弟の『かくかくしかじか』と、同性愛と家族のあり方を描く『弟の夫』は、どうしてもこれを描かねばならない理由と決意が、もう愛としか言えない。愛されるために生まれた美しさと才能を持った少女たちの『淡島百景』と、心を持たないからこそ純粋な『機械仕掛けの愛』の「機械と人間の関係」の切なさと残酷さ。
『町田くんの世界』の愛し方、愛され方の愛らしさは胸が苦しくなるほど。『たましいいっぱい』の不思議でふざけた、生きてないけどいきいきしたやつらも愛さずにはいられない。
メディア芸術祭の受賞の発表の日、受賞者だけでなく出版社も書店も読者も嬉しそうで、SNSで飛び交う「おめでとう!」に胸が熱くなる。審査委員でつくった神輿をみんなで楽しそうにかついでくれて、肩が一気に軽くなる。マンガの周りは愛に満ちているじゃないかとうれしくなると同時に、私のマンガへの愛もまだまだだと思い知らされる。課題は多い。描くのも読むのも審査する能力も自分のマンガの売り上げも来年はなんとか向上させたいものだ。

プロフィール
松田 洋子
マンガ家