18回 マンガ部門 講評

編集者のいるマンガ、いないマンガ

本年度の審査には「覚悟」をもって臨むことになった。応募総数が763作品にもなり、一通り目を通すだけでも大変な労力を要することが予想されたからである。
ただし、昨年に比べて楽になった点もあった。「単行本で発行されたマンガ、雑誌等に掲載されたマンガ」の大半が電子書籍版でも提供されていたおかげで、大量の本を抱えて歩くこともなく、作品を好きな場所で読むことができた。「コンピュータや携帯情報端末等で閲覧可能なマンガ」は、新興のIT 系企業が提供する縦スクロールマンガを中心にした「画面で読むマンガ」と、実績のあるマンガ出版社が提供する「紙でのコミックス化を前提としたマンガ」の2系統に区別された。
縦スクロールマンガの中には、一回ごとのストーリーの展開が冗長で、読み続けるのに苦痛を覚える作品が多かった。縦スクロールならではのエフェクトを効かせた作品も一部に過ぎず、これでは読者に見捨てられる日も近いのではなかろうか。
また、大量の作品を並べるだけで、編集者の影が見えないのも、このジャンルの特徴である。
それに対し、『ワンパンマン』に代表されるマンガ出版社系の「デジタルマンガ」には、コミックス化を前提としていることもあってか、編集者の関与が感じられた。新興のデジタル勢力が旧勢力に伍(ご)するためには、作品の質をチェックできる編集者の育成が急務ではなかろうか。
「紙のマンガ」で大賞受賞作となった『五色の舟』といい、新人賞に入った『どぶがわ』や『ちーちゃんはちょっと足りない』といい、理解ある編集者の後押しがなければ雑誌に掲載されにくい作品が、本年度の入選作品には多かった。そこには、マンガ家はもちろんだが、編集者の覚悟や矜持(きょうじ)も感じられ、頼もしい思いがしたものだ。「同人誌等を含む自主制作のマンガ」が「画面で読むマンガ」同様に不作だったのも、もしかすると編集者の存在の有無が関係しているのかもしれない。

プロフィール
すがや みつる
マンガ家/京都精華大学教授
1950年、静岡県生まれ。高校卒業後、マンガ家アシスタント、編集プロダクション勤務などを経て石森プロに所属し、71年、『仮面ライダー』(原作:石ノ森章太郎)にてマンガ家デビュー。児童マンガを中心に活動し、83年、『ゲームセンターあらし』(小学館、1980)、『こんにちはマイコン』(小学館、1982)の2作で第28回小学館漫画賞を受賞。大人向け情報マンガや娯楽小説の分野で活動後、2005年、教育工学を学ぶため早稲田大学人間科学部eスクールに入学。11年、60歳で早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程を修了後、12年より京都精華大学マンガ学部非常勤講師、13年より同大学教授。著書に『仮面ライダー』シリーズ、『一番わかりやすい株入門』(共著、講談社、1985)、『マンガでわかる小説入門』(ダイヤモンド社、2005)、『仮面ライダー青春譜』(ポット出版、2011)などがある。