17回 アート部門 講評

よりアクチュアルに展開するメディアアート

私たちを取り巻くテクノロジーの発達とともに生み出されたともいえるメディアアート。今年度の芸術祭に寄せられた2,500点近くにも達しようというアート部門への応募作品からは、時が進み、この技術の先進性を獲得すべく制作された作品と、その一方でメディアアートという言葉の持つ寛容さを現す作品が見受けられた。つまりテクノロジーの高みを目指すアーティストがいる一方で、日常化した技術を軽やかに用い、自らの思考や表現を表出化する術として、多岐にわたるメディアを選ぶアーティストもいる。非限定的なメディアの使用やジャンルを越境する試みは、柔軟性を保ち多様性を示しているが、このことこそがメディアアートたらしめるゆえんであり、時代の変遷による作品の差異は、この「メディア芸術祭」にも少なからず変化をもたらしているだろう。応募点数が最も多かった映像作品では特にこれらの点が顕著であり、海外からの作品を主にテクニカルな面の強調よりも、現代のアクチュアリティに基づいたドキュメンタリー性や物語性の強い内容の充実したものが多数見られた。いわゆるビデオアートとしての表現様式を備えながらも、ここでもジャンルの境界が融解することでメディアアートの広がりを現している。応募点数が多いのも、こうした理由が挙げられるのではないだろうか。大賞を受賞した『crt mgn』は、メディアアートとしてのある成熟した姿を示しているように思った。また同時に優秀賞の中でも『Dronestagram』や『The Big Atlas of LA Pools』といった作品では、昨今のインターネット環境が醸成した社会の反映を受け、そのネットからのデータをメディアアートとして成立させる手法が試みられている。コンピュータテクノロジーが進化する上で、SNS(ソーシャル・ネット・ワーキングシステム)の普及に見られるビッグデータ時代の到来は、これまで現代美術のあり方として重要なテーマであった「引用と複製」について、時代に寄り添うメディアアートの新たな展開を示すものとして注目した。

プロフィール
植松 由佳
国立国際美術館主任研究員
香川県生まれ。1993年より丸亀市猪熊弦一郎現代美術館勤務を経て現職。現代美術を中心に国内外で展覧会を企画。主な展覧会に映像作品によるグループ展「夢か、現か、幻か」やヴォルフガング・ティルエイヤ=リーサ・アハティラ、マルレーネ・デュマス、マリーナ・アブラモヴィッチ、草間彌生、ヤン・ファーブルの個展など多数企画。第54回ベネチア・ビエンナーレ日本館コミッショナー(作家:束芋)、第13回バングラデシュ・ビエンナーレ日本参加コミッショナーを務めた。