第25回 アート部門 講評
残念ながら 選ばれなかった 方々へ
新任審査委員として最初にお伝えしたいことは、選外となった方に、必要以上に自信を失ったり、焦燥感に駆られたりしないでいただきたいということです。文化庁メディア芸術祭には歴史があり、特有の磁場や文脈があります。審査委員としてはその文脈を尊重しつつ、全力で応募作に向き合い、真剣に議論を交わし、今回の結論を導いたつもりです。ですが、もともと芸術祭のためではなく、それぞれの固有の文脈のなかで制作・発表された応募作の前提や機微を十分に評価できなかった場合も少なからずあったでしょう。審査委員が一人でも違ったら選ばれなかった作品や、逆に選ばれることになった作品もあったはずです。選外になった方には、一層意欲作に取り組んでいただき、世に問うていただければ、と心から願っています。
審査のうえでは、VR作品やサイトスペシフィックな作品など、実際に体験できない応募作が多かったことが想像以上に大きなハードルでした。何とか情報を集めて想像で補いながら必死に食らいつこうとするものの、歯がゆく思う場面も多かったです。一方、応募者側のもうちょっとの努力で回避できる困難もありました。それは、作品の構成、特に技術的な情報(素材や仕掛け、どの程度実際に実装されたものなのかなど)についてです。その記述が不足していたがゆえに判断することができず、選外になったものが実は少なくありません。実際の展示においては、詳細な構成の記述を控える判断があることも理解できますが、審査においては技術的な情報がきちんと与えられていることはかなり重要な判断材料になりました。
なお今回は、よく練られ、高度な技術レベルで実装された作品に多く恵まれた一方、強靭な批評性を帯びた作品や、先鋭的で実験的な作品はやや少なかったようにも思います。それでも今回の審査を通じて多くの応募作に向き合うことで多くの気づきや学びがありました。このような機会をいただいたことに感謝しつつ、メディア芸術の多面性や可能性をさらに見せつけてくれる意欲作にまた出合える機会を楽しみにしています。