16回 エンターテインメント部門 講評

今日もどこかで情熱が燃えている

エンターテインメント部門には、ウェブ・映像・ゲーム・ガジェット等々、多種多様なジャンルから作品が集まる。今年で審査3年目の私は、どうしてもこれらジャンルの浮き沈みというものを読み取ってしまう。その結果、ウェブの不調とゲームの成熟を強く感じた。ウェブの低調は意外だった。世の中では紙からウェブへ(電子書籍を含む)の波は留まるところを知らず、広告の投下量を含めて好調に見えているジャンルである。しかし今回は、新しいアイディアは少なく、ソーシャルメディアを使った「つながり」ばかりが強調された作品が多かった。新人賞の『どうでもいいね!』はそうした状況に対するいらだちを表明した唯一の作品だったので評価されたのだろう。ゲームの成熟というのは、アクションRPGやFPS(一人称視点(ファースト・パーソン)シューティングゲーム)に顕著だが、ゲームの制作手法が完成に近づき、シナリオやグラフィック、プレイヤビリティの向上に注力されている印象を受けた。良きにつけ悪しきにつけ「新規性」はこの市場の中心テーマではない。
しかし大賞や優秀賞に残った作品は、そうしたジャンルの浮き沈みとは関係なく、果敢にチャレンジをした作品となった。『Perfume" Global Site Project"』は、コンシューマによる創作という動きを巧みに作品に採り入れたもので、つながりを強調することなく結果的に人々がつながる体験をもたらした。『GRAVITY DAZE /重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』はゲームジャンルで唯一と言っていい、新しいゲーム体験を見事にまとめあげた作品だった。また『水道橋重工「KURATAS」』や『勝手に入るゴミ箱』など個人の圧倒的な妄想力と技術力を発揮した作品には希望を感じた。
ジャンルの浮き沈みはこれからもあるだろう。しかし最終的には制作者一人ひとりのわけのわからないがむしゃらな情熱によって未来はつくられていくのではないだろうか? 今日もまたどこかでそのような情熱が発光していることを願う。

プロフィール
伊藤 ガビン
編集者/クリエイティブディレクター
編集者・クリエイティブディレクター。