第15回 アート部門 講評
あらゆる事象の本質を問う3.11以降のアート
メディア芸術の定義は簡単ではない。絵画であれ彫刻であれ、伝統的な芸術様式も表現を伝えるメディアであるからだ。かといって、テクノロジーとして新しければよいというわけでもない。従って、広義にメディアの特性を意識しつつ、従来の芸術概念を破る、拡張する作品を選ぶことを審査基準として選考に臨んだ。内的な葛藤以上に、外的なストラグル、他者との関わりから個や私を超え、時代や社会の不定型な情動が浮かび上がることを期待しているのだ。ポスト・ポストモダン社会では、テクノロジー、サイエンスを取り込んだインスタレーションモデルがますます重要になると思われる。それは必ずしも美術館という制度化された時空ではなく、街、社会、地球レベルで行われるだろうし、古い作品というボーダーも超えるインスタレーションになっていくだろう。
本年の審査は、3.11以降のアートという視点なしにはありえない。3.11はアーティストの間でも様々な問いのエコーを引き起こしている。ポリティカルなアプローチをする者もいれば、表面的にはまるで無関係に見える作品もつくられるだろう。3.11は何らかの形で我々に再定義化を迫る。モラルや世界観、いや我々の存在そのものを問うのだ。
今回、映像というメディアとしては古い分野に見るべきものが多く、大賞受賞作品は記憶や存在を問うもので非常に良かった。デジタルフォトは写真自体がアナログからデジタルへの変化のさなかにあることのストラグルから、見応えのある作品、作家が出てきた。おとなしく見えるが、写真がコンテンポラリーアートのフロントラインに踊り出ていることを再確認させられた。
プロフィール
後藤 繁雄
京都造形芸術大学教授
1954年、大阪生まれ。編集者、クリエイティブディレクター。京都造形芸術大学教授。アートブック、写真集の編集に多数携わる。東京・恵比寿の写真とグラフィック専門のギャラリーG/P galleryを主催。また2010年6月よりアーツ千代田3331にて新しいギャラリーg3/(トリプルジー)と、96年より続けてきた編集学校「スーパースクール」が一体となったスペースをオープン。11年よりアートフェア「TOKYO FRONTLINE」を5カ年計画でスタートしている。