第23回 アニメーション部門 講評
改めて感じるアニメーションの力
2019年は長編アニメーションが豊作だったらしい。文化庁メディア芸術祭の審査委員を初めてする私にとっては例年を知らないので豊作かどうかはわからないが、確かに見応えのある作品が多かった。技術レベルが高いのももちろんそうだが、雨、雪、火、風、水などの表現のしかたもえげつないほど素晴らしかった。そのなかで、審査委員5人から最も高い評価を得たのが『海獣の子供』だった。ほかにも数作同じように評価の高い作品はあったが、共通の評価基準とそれぞれの経歴などから出てくる個人的な基準を総合したときに一歩抜きん出たのがこの作品なのだと思う。子どもの頃、クジラの図鑑か絵本を読んだときに感じたこんなものが世のなかにいるんだという圧倒的な恐怖がこの作品の生き物の描写で久しぶりに蘇ってきて、その迫ってくる生命力に身の毛がよだつ思いだった。そしてそれをひとつの線から生み出せることをまざまざと見せつけ、アニメーションの魅力をブンブンに振りまいたこの作品は、大賞にふさわしいと言えるのではないだろうか。ただ、豊作の年と言われた長編であったが、個人的には短編アニメーションも負けじと良質な作品が多かったように思う。受賞作ももちろんそうであるが、山村浩二『ゆめみのえ』の延々と観ていられる動きの軽やかさは自在の域に入っているし、水尻自子『マイ・ラグジュアリー・ナイト』は曲との素晴らしいマッチングでこれまでの水尻作品と比べてもさらなる深みが生まれている。Anu-LauraTUTTELBERG『Winter in the Rainforest』は異質さを敢えて強調することでアニメーションの根源を教えてくれる良作であるし、Kevin ESKEW『Now2』が残す気持ちのいい謎は2019年でベストオブ謎だと思っている。そのほかにも良い作品が多くあったのだが、賞の数に限りがあり、なかには審査の過程で審査委員会推薦作品にも入れられなかった作品があったのは、ただただ申し訳ない気持ちだ。ごめんなさい。