第22回 アート部門 講評
多様な表現分野からメディアアートへの転換
アート部門の審査は、昨年から審査委員が3名変わったこともあり、「メディア芸術」のなかのアート部門の方向性にも変化が出たように思われた。従来は、キネテックアート、映像作品、アニメーション、現代美術による表現などの多様な表現分野の、言い換えれば、やや雑多な領域の受け皿的なかたちで、各特徴的表現を振り分けて評価してきたやり方であったが、今年はそれから大きく舵を切り、情報デザイン、メディアアートをアート部門の中核として評価していく方針が結果的に明確に表れた審査になった。雑多な領域に対する多様性から、メディアアートにフォーカスが絞られたなかでの多様性を見出すことへのシフトとしても捉えられる。結果的に、大賞、優秀賞が日本のアーティストに占められたが、それらの提案するテーマ性は、AI、A-LIFE、バイオアート、ロボティクス、多次元表象といった非常に今日的な科学的なモチーフを内含し、緻密なシステム構築と独自のプロセスや思考によって作品として仕上げられたもので、ある意味すでに認知された作家名が並んではいるが、ほかの候補作を圧倒した出来上がりであったことは確かである。こうした緻密な手つきは、日本の特徴と言ってもよいものになりつつある。サブカルチャーの意匠に塗れたものだけが、日本の輸出品でないこともこれらは証明しているだろう。これらの作家は、ほかのプロダクションや企業プロジェクトでのグループワークでも、重要な役割を担っている多彩なタレントであり、個人名だけが屹立しているわけではない。中堅世代の多元的なプロフェッショナリズムの両立が、内容の充実度を生んでいるとも考えられる。反面、新人賞を獲得したロシアのアーティストAndreyCHUGUNOVの『TotalTolstoy』は、今日的なスマホカルチャーのトピックにおいては、もはや廃れてしまった人文主義的な主題や、それらが包括する長大な時間持続性の最もふさわしいサンプルとして、トルストイのテキストを解析対象にし、情報学的アプローチによってオーディオビジュアル化したものであるあ、メディアアートの主題戦略として、このような社会批評的なアプローチも有効であることを、作品化によって喚起した興味深い事例となっていた。