25回 フェスティバル・プラットフォーム賞 講評

表現の枠を拡張する テクノロジー

第23回より新設されたフェスティバル・プラットフォーム賞は今回で3回目になりました。プラットフォームを限定している点、また映像コンセプトが規定されている点がメディア芸術祭のほかの賞と違ってユニークな点です。
本年度のテーマは「新しい世界の共有 ~世界のいまを映す~」。持続可能な未来へ向けて動きはじめた世界の「いま」をリアルに映し出すことにより、世界と「わたし」とのつながりが身近に感じられるような、そんな作品を募集しました。
応募総数は昨年度比で増えてはいるものの、昨年から引き続きのコロナ禍によって、どこかの場所に出向いて複数の人と一緒に何かを眺めるといった機会も残念ながら激減したままです。その影響か、残念ながら応募作品もパーソナルスクリーンでも見られるような平面の映像作品をそのまま流用した応募も多かった印象です。
そのなかでも受賞に至った2作品は、設備・施設の特性の生かし方の提案がなされていて、またテーマ性も応募要項と合致しており、作家独自の「世界」の捉え方が魅力的に表現されていました。
ジオ・コスモスは球体ディスプレイで、横から見たり下から見上げたり、さまざまな接し方ができるユニークなプラットフォームです。
受 賞した『Path of Noise (r, theta, phi)』は、その特性を十分に捉えどこから見ても美しい映像で、人と人のつながりや別れをよく表現していました。
ドームシアターは、全天球映像で鑑賞者を包み込むような迫力を届けることができるプラットフォームです。受賞した『親愛なるウイルスたちへ』は、アナログなペインティングをデジタル空間に構築して、温かい感情を掻き立てることに成功していました。ドームシアター用に再構築される際、視線誘導などにどのような工夫が生まれるかが楽しみです。ジオ・コスモスやドームシアターといった新しいプラットフォームは、まだまだ使い方が開拓しつくされていないと感じます。今後もどんどん意欲的な作品が生まれることを期待しています。

プロフィール
米澤 香子
1985年、神奈川県生まれ。株式会社電通 クリエーティブ・テクノロジスト。