18回 マンガ部門 講評

子どもマンガの不在

今回の審査では、700本以上の作品数に圧倒され、それらを読むのに一苦労だった。プロ作品は全体的に技術のレベルも高い。ひとつには道具の進化や、海外作品、ゲームなどの高いレベルの絵を目にする機会が増えたこと。そして今や当たり前のように、幼い頃からマンガを読んでいる子どもたちが英才教育を受けるがごとく、成長してきた結果なのだろうと思う。50年前のマンガ家たちが、本という紙媒体の上で見開きのコマ割り構成の研究を続け、流れるように、あるいは走るように、物語の世界に読者を引き込むことに成功して以来、日本のマンガは世界に発信できるメディアとして認められた。しかし残念なことに、本の世界ではこれ以上の進歩は望めない程、完成し切ってしまった感がある。技術的な面だけでなくストーリーに関しても、大きなジャンル分けは既に出尽くしていて、多分野にわたって細分化し、更にいえばマニアック化しているにすぎない。今回特徴的に思えたのは、高学歴の作者、あるいは読者が増えた結果なのか、文学的な匂いのする作品が非常に増えていたこと、そして性や障害を描いたもの、タブーとされていたものが単純な興味ではなくひとつの感性として描き出された作品が多かったことだ。完成度が高くなることは喜ばしいのだが、なぜか寂しさも覚えてしまう。素直に「面白い」と感じる感性も、大事なことであると私は思う。大人たちから眉をひそめられ、「こんなもの」といわれながらも、それをバネに成長し続けたマンガはもうないように思う。そうなると残るは時流に乗った流行と、個人の感性に頼るだけなのだが、同人誌を含め、その感性も既に「大人のマンガ」であるといえる。世に出回るすべての作品がエントリーをしているわけではないので、これがこの賞の特徴なのかもしれないと、今回は自分を納得させてみた。私が一番見たかった未来につながるマンガは、今回賞には選ばれなかったが、ウェブマンガの今後に期待する。

プロフィール
犬木 加奈子
マンガ家/大阪芸術大学客員教授
1958年、北海道生まれ。87年に講談社『少女フレンド』増刊号にてデビュー。89年、講談社『サスペンス&ホラー』創刊時より雑誌表紙、巻頭を描き続け、代表作『不思議のたたりちゃん』(講談社、1992─)などを発表。92年には秋田書店、ぶんか社、リイド社、角川書店をはじめホラーマンガ誌が創刊され、それらすべての雑誌表紙、巻頭を担当。また作品がOVA化される。これまでに犬木加奈子漫画賞をはじめ、ホラー誌の選考委員や、漫画の日選考委員、日本漫画家協会賞選考委員を務める。2001年には、第1回日中民間文化交流に参加し北京の中国美術館で作品を展示。08年より大阪芸術大学客員教授。11年にはフランス、13年には銀座のギャラリーなどで展示を行なう。14年4月より東京藝術大学で講師を務める。16年、日本大学芸術学部芸術資料館にて「ホラー漫画家 犬木加奈子の世界」展を開催。