21回 アニメーション部門 講評

スタンダードなつくりの良さ

今年のフィーチャーアニメは昨年に比べやや枠に収まった感があるが、反面まとまりのいい優れた作品も多かった。そして映画『この世界の片隅に』やテレビ『舟を編む』などのスタンダードなつくりの良さを再認識させられた審査でもあった。特に大賞『この世界の片隅に』は正攻法で主人公の人生を淡々と描き、この映画に普遍性を与えている。シンプルな映像づくりも主人公役のんの個性を生かした演技も作品にピタリと当てはまった。また新人賞『舟を編む』も奇をてらわず丁寧なつくりが本屋大賞の原作の良さを引き出しており、清々しさを感じた。対称的なもうひとつの大賞『夜明け告げるルーのうた』は自由でダイナミックなつくりの作品だ。ドラマチックな展開、いきいきしたキャラクターたち、物語を生かす音楽、独特の味の回想シーンなどいろんな要素が詰まったアニメーションならではの映画。今年の私の推しは優秀賞の2作品『ハルモニアfeat. Makoto』と『COCOLORS』だ。ミュージックビデオ『ハルモニアfeat. Makoto』はその自由な発想が音楽と見事に融合しアニメーションならではの素晴らしさが発揮されている。一カ所にとどまらない湧き上がるイメージがその美しい色使いとともに生命感あふれる作品となっていて、観る者のイマジネーションを広げ、そして心地良くしてくれる。 中編『COCOLORS』は現代的テーマとともにCGの特性を生かした表現が素晴らしい。表情の見えないキャラクターで閉塞感とそこからの解放を描き、色の無い世界を絵に託した演出、人間の動きのリアリティ、輪郭線で統一した絵づくりなど、今後のCG作品に期待を持たせてくれる作品だ。それだけに台詞回しに映像やテーマに見合う工夫がなかったのが惜しい。ほかにも毛糸を使った映像と音の組み合わせが見事な『From the same thread』、複雑な親子関係を線画と影で表現した『O Matko!』、野良猫を通して描く独特の造形と世界観のおもしろさが光る『Ugly』のショートフィルムのはみ出し感が嬉しかった。

プロフィール
西久保 瑞穂
映像ディレクター
1953年、東京都生まれ。72年、早稲田大学放送研究会所属。76年、株式会社竜の子プロダクションに入社。79年に退社後、出崎統に師事。その後フリーとして、テレビアニメーション、オリジナルビデオアニメーション、劇場映画、CM、PV、ゲームなどのディレクションに携わる。劇場映画『アタゴオルは猫の森』『宮本武蔵―双剣に馳せる夢―』『ジョバンニの島』、オリジナルビデオアニメーション『街角のメルヘン』『エイジ』『電影少女』、テレビアニメーション『みゆき』『赤い光弾ジリオン』『天空戦記シュラト』『お伽草子』、CM『夢のかなう場所』『NEXT A-Class』、ゲーム『やるドラシリーズ』などの監督を務める。また『イノセンス』をはじめとする一連の押井守監督作品では演出を担当。『ジョバンニの島』はアヌシー国際アニメーション映画祭(フランス)、ファンタジア国際映画祭(カナダ)、毎日映画コンクール(日本)、シカゴ児童映画祭(米国)など世界8カ国で15の賞を受賞。