23回 マンガ部門 講評

マンガの世界はBig Bang!!

おもしろい作品ばかりだった。そして、選ばれたマンガ作品のなかからさらに良いものを選ぶのはなんと難しいことか。良いものは良いのだから、と思いながらも候補作品を読んでいった。読み終えたあと思ったことは、マンガを読み続けて60年近くなるのだがマンガの変化はとどまることを知らないということである。特筆したいのは『ゴッホ最後の3年』。デフォルメされたキャラクターとゴッホの絵画とのマッチングが素晴らしい。翻訳の素晴らしさも見逃せない。時々のゴッホの嬉しい気持ち苦しい気持ちを読者に伝え、何の苦労もなく読み進められるのは翻訳によるところが大きいだろう。美術館へ行き改めてゴッホの絵を観てみたいと思った。先にマンガの進化と言わず変化と書いたのは、10年20年いや50年前のマンガ作品でありながら今読んでもおもしろい作品はたくさんあるからだ。過去のマンガはすたれていくものであるがすたれるどころか今のマンガにも影響を与え続けている。ストーリーの構成、コマの割り方、構図の取り方、吹き出しの形......。マンガのあらゆる要素が変化して今に至っている。今回多くのマンガ作品を読んで強く感じたのは設定の変化である。時間を超え距離の測れない幅広い範囲に多様な設定で作品がある。いろいろな設定の作品が集まっているなかで気になり目を引く作品と言えば感情移入しやすくその世界に入り込める作品であろう。入り込みやすくするために作家は工夫を凝らしている。最終審査に残った作品はどれもがその世界に入っていけるように工夫しているものであった。大賞と優秀賞、優秀賞と推薦作品の差は微々たるもので満場一致で決まった作品はなく、それぞれの作品に対し意見が述べられ審査委員の総意によって決められた。審査会において各委員の意見を聞いていると共感する部分と、「えっ、そんな解釈を」と見どころ捉えどころが違う意見に新しい発見を得た。今回読んだ作品はひとつとして同じペンタッチ、同じストーリーの作品はなく全部違っていた。当たり前のことであるが、それがマンガなのだ。マンガ家が情熱をもって描いた作品を選考するのは大変であったが楽しくもあった。マンガは本当におもしろい。

プロフィール
倉田 よしみ
マンガ家/大手前大学教授
1954年生まれ。秋田市出身。高校卒業後ちばてつや先生に師事。5年半のアシスタント生活を経て独立。第4回小学館新人コミック大賞に入選。入選作「萌え出ずる・・・」でデビュー。1984年から描きはじめた「味いちもんめ」で1999年第44回小学館漫画賞受賞。「味いちもんめ」は現在も連載中。平成21年から大手前大学で教鞭をとり始める。日本の学生だけでなく世界各地、中国、韓国、台湾、マレーシア、パリ、シアトル、モンゴル、ウクライナでワークショップを開く。マンガジャパン会員、日本漫画家協会理事。外務省日本国際漫画賞、漫画家協会漫画賞、中国広州金龍賞、マレーシア新人漫画賞等の審査員を務める。