第21回 エンターテインメント部門 講評
新たな価値軸を 打ち立てるための チャレンジ
昨年は「メディア芸術のエンターテインメント部門という枠組み自体が限界に来ているのではないか」ということを書いた。「メディア芸術」という設定、「エンターテインメント」という存在、それぞれが大きな力を持っていることに疑いの余地はない。が、問題は、両者を結び付けて評価をするとはどういうことなのか、そこから何を導こうとするのか、という点にあると思えた。すでに多くの人の支持を得たうえで、商業的にも成功し、誰もが「すごい」と言っているものであれば、追って称揚することにどのような意味があるのか。しかし、その問題も含めた論議を徹底して重ね、単一には絞り込みようのない価値軸を提出し合うことで、今の時代に起きている「メディア芸術としてのエンターテインメント」「エンターテインメントとしてのメディア芸術」の試行錯誤と切磋琢磨の多様な姿が浮かび上がることになった。どの価値軸を推すのかということよりも、追求する価値軸はさまざまであっても、そのなかで十分な達成または説得力ある問題提起に至っているか、あるいはその前段階の問いのレベルに留まっているか、という点が、論議を通して熱を帯びたところだった。昨年はいくつかの作品に対して十分な評価がし切れていない気が個人的にはしていた。しかし、その達成や問題提起が本当に未来を指し示すものであるならば、今後必ず何らかのかたちで顕在化するはずである。審査はその姿をできるだけ見逃さないよう務め、開花へ向けた後押しをするべきものだが、萌芽の段階での見極めがは難しいことは言うまでもない。何しろ、現時点ではまだ見えていない、新たな価値軸を打ち立てるためのチャレンジに立ち会っているのだから。テクノロジーの生かし方をめぐる論議は当然として、それに接した時の人間の情動や行動の質をめぐる論議にもなった。応募作品の多彩さとそれぞれの力量がそれを可能にしたことは言うまでもない。来期にも大いに期待したい。