第18回 マンガ部門 講評
多様な作品の豊かな奔流という困難
本年、目立ったのは、区分ごとの応募状況の大きな違いである。「単行本で発行されたマンガ、雑誌等に掲載されたマンガ」区分が大幅に応募数を増やし、500タイトルを超える作品が集まったのに対し、「同人誌等を含む自主制作のマンガ」の区分が実に振るわなかった。応募数の差のみならず、紙媒体の「同人誌」の低調ぶりは、単行本で発行されたマンガの充実ぶりと実に対照的であった。他方、単行本等の区分の審査では、現在流通しているマンガの「物量」をまさに体感することになった。数が多いだけでなく、実に面白く、充実した内容のものが多かった。しかし、数多くの雑誌が刊行され、大量の単行本が次々と発売される一方、ひとりの読者が出会うことのできる作品数は限られている。つまり、人々の手に取られるまで、スタートラインに立つ以前の困難さが既にあるという状況だ。
審査に当たっては、各出版社が提供するウェブ上の「試し読み」をかなり活用した。とはいえ「試し読み」の多くが冒頭のみであり、映画の予告篇のような機能を果たしているとは言い難いところがあった。エンターテインメント系連載作品の物語冒頭は登場人物を印象づけたり、状況を説明することなどに終始することが多く、機能的に導入を果たすため構造が似通い、作品の「よさ」が伝わらないという逆説が起きている。今後もウェブ上の「試し読み」は、電子書籍販売のウェイトが増えるに従い、重要になってくるものと思われるだけに、いささか残念に思った。
またウェブといえば、韓国由来の「ウェブトゥーン」と呼ばれる形式の連載マンガが数多く応募されたことは記しておいてよい。縦にスクロールするひとつのファイルを用い、一方向に連なるコマを読ませる形式である。残念ながら今回は授賞に至る作品はなく、かつ紙媒体のマンガでは普通に用いられる複雑な視線誘導という装置が使えないぶん、ハンデは大きいと思われるが、今後の新しい形式としての可能性は見ておくべきだろう。